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第53話

*_… 「いいのか、本当に何も手伝わなくて」 「いいよ兄さん、ほら座ってて。俺と琳太朗で今日はもてなすって決めてるんだから」 夕方に差し掛かり、真郷と琳太朗は夕飯の支度をしていた。 おおよその準備は前日に済ませておいたので、後は盛り付けをして並べるだけだった。 それでもそわそわと落ち着かない郷留に、真郷は思わず笑ってしまう。 「はい、もう出来てるから。汁物持ってきたら皆で食べるよ」 くすくすと笑いながら真郷は、お椀に汁物を盛る琳太朗を振り返った。 幼い弟たちももう20歳を過ぎて大人になったいることは知っていたし、実感していたはずなのに。 弟にもてなされるのはやや違和感がある郷留。 そんな兄の姿を新鮮に思いながら、真郷は琳太朗を呼んだ。 真剣なこともあってか、琳太朗はその声に振り返らない。 それでもなんてことないように真郷は琳太朗に近づき、隣からそっと声を掛ける。 その真郷の慈愛に満ちた優しい横顔に、郷留は目を見張った。 「ごめんねお兄ちゃん、出来ました!」 「お待たせ。じゃあ食べようか」 くるりと二人は振り返り、琳太朗がそっとお盆を持って来る。 郷留が待つ食卓につき、三人は揃って手を合わせた。 『いただきます』と挨拶をすると、各々好きなものに手を伸ばす。 こんな風に食卓を兄弟で囲んだのは、真郷と琳太朗が小学校に入学する時以来だった。 それが最初で最後の、家族の団欒だったのだ。 冷たい記憶が暖かく塗り直され、琳太朗は胸が熱くなるのを感じた。 * そんな楽しい時間はあっという間に過ぎていく。 目の前にあったそれぞれの皿は空になり、話題も程良く区切りがついた。 郷留は皿洗いを申し出たが、二人が頑なに拒んだので渋々諦めてその日は帰ることとなった。 「奥さん家で待ってるんだから、早く帰りなよ。雪も少し降ってきたから気をつけて」 「また……また来てね!」 それぞれが見送る言葉を言うと、郷留は二人の方をじっくりと見てから口を開いた。 「……あぁ、また来る。お前らが俺の家に来るのも楽しみにしてるからな」 じゃあまた、と手を振る郷留。 郷留の車が見えなくなるまで、真郷と琳太朗は並んでじっと見送っていた。

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