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第54話
「お兄ちゃん……帰っちゃったね」
二人並んでソファーに座りながらテレビを眺めていた時に、ぽつりと琳太朗がそう漏らした。
琳太朗は真郷の肩に頭を寄せ、視線を落とす。
分かりやすく寂しそうに落ち込む琳太朗に、真郷は頬を緩めた。
「また来るって言ってただろう? 兄さんは約束を破るような人じゃないよ」
「……うん」
「それに、俺らが兄さんのところに行ってもいいんだから。前よりもずっと……兄さんは近くに居るよ」
あの家から離れたことで、兄弟は随分と自由になったのだ。
「そうだよね……俺だってもう、自由に歩いていいんだもんね」
自分の足で、好きなところへ。
琳太朗はその事実を改めて感じ、目頭が熱くなるのを堪える。
気持ちの揺れも大きくなってきた分、涙脆くもなった。
溢れそうな気持ちに当て嵌まる言葉は見つからないが、それでも喜びに近い高揚感であることは分かる。
「……疲れてるな。今日はこのまま寝るか」
「うん。真郷、ベッドまで連れて行ってくれる?」
甘えたい気分だから、と琳太朗は真郷の首元に腕を回した。
真郷は何も言わず琳太朗を抱き上げ、額に軽くキスを落とす。
突然のことにぽかんとする琳太朗に、真郷は噴き出してしまった。
「ほんと、可愛いヤツだなぁ」
ジタバタと足を動かす琳太朗に、真郷はさらに笑い声をあげる。
真郷は愛おしい存在を抱きしめながら寝室へと向かった。
ゆったりとした動作で柔らかくベッドに下され、琳太朗はそのまま押し倒される。
真郷も隣に潜り込んできて、ピタリと体を寄せ合った。
雪の夜、まだ暖まっていない部屋ではお互いの体温が心地良い。
「今日はお疲れ様、琳太朗……おやすみ」
「うん、真郷も。ありがとね」
琳太朗は真郷の手を取り、口元に寄せた。
吐息まじりのおやすみの後に、琳太朗はゆったりと目を閉じた。
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