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第56話
未だ寒さは残っているが、少しずつ春の兆しも見えてきた時期。
真郷と琳太朗は、春に向けて新しく買い出しに向かうことになった。
春物の服に、新しい家電。
琳太朗でも扱いやすい調理器具を揃えるために、デパートまで足を運ぶ。
平日なら人が少ないだろうと狙って行ってみたものの、それなりに賑わっていた。
琳太朗は真郷の後ろにぴったりと身を寄せて歩く。
ちょこちょこと控えめな動きをする姿は、さながら子供のようだ。
「琳太朗、先に服を見るか。その後に電化製品で……あ、あと雑貨屋もか」
「ん、分かった」
「離れるなよ。裾でもどこでも良いから、俺に捕まってて」
真郷のその言葉に、琳太朗は服の裾を控えめに掴んだ。
琳太朗は人混みにやや緊張していたが、歩いていくうちに次々に目に入る店がきらきらとして見え、呆気にとられていた。
世の中にはこんなものがあるんだ、とただただ感心するばかり。
奥まった場所にある服屋に着いたときには、既に人混みのことなど意識から抜けていた。
「出掛けるときの為に何着か欲しいよな……琳太朗はどんなのが着たい?」
「え、えっと……あの、上の人のやつみたいなの」
「あぁ、あのマネキンか。確かに似合いそうだな」
ラベンダーカラーのカーディガンに無地の白いシャツ、淡い色のデニムを身につけたマネキンを指差した琳太朗。
線が細く、主張しすぎない色が似合う琳太朗によく似合いそうだった。
真郷はそこから琳太朗の好みそうなものを選んで、どれにするか2人で決めていった。
真郷の分も決め、新しい服が詰まった袋を琳太朗が持つ。
まだ買い物は序盤だが、随分と琳太朗は満足そうだ。
「じゃあ次は家電と調理器具かな」
「うんっ、行こう!」
キラキラした眼差しを真郷に向け、琳太朗は微笑む。
真郷は内心ほっとしながら、目当ての店に足を進めていった。
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