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第57話
一通り目当ての物を買った二人は、出口近くのベンチに座っていた。
琳太朗は真郷の肩に頭を預け、青白い顔を歪めている。
目的を達成したこと、時間が経って人が増えたきたことで、琳太朗の張っていた緊張の糸が切れてしまったのだ。
「疲れたよな、琳太朗……瀧川さんの迎え、呼ぶか?」
「もう少し休んだら、多分へいき」
「……無理するなよ」
真郷はポケットから取り出しかけたスマートフォンをしまい、琳太朗の背を撫でる。
顔は白いが、その背中は微かに普段よりも熱を帯びている気がした。
人混みに酔ったのだと思ったが、二人が思っていた以上に今の琳太朗にとっては重い負荷だったようだ。
「真郷、今日楽しかったよ。疲れたけど、初めて見るものいっぱいで」
「そうか。それなら、良かった」
「うん……また、一緒に来てくれる?」
琳太朗の問いに、真郷は「当たり前だろ」と肩を抱き寄せた。
初めてでキラキラと輝く店が、いつの日か当たり前の景色になるように。
二人で出かけることが、当たり前のことになるように。
大海を知らない控えめな恋人のことを想うと、真郷は無性に愛おしくて抱き締めたい衝動に駆られる。
力を込めすぎると壊れそうだけれど、ありったけの思いを込めてこの手の中で温めてあげたい。
「よかった、へへ……うれしいなぁ」
琳太朗は口元を緩めて笑う。
幾分か気持ちが解れ、先程よりも顔に赤みが戻ってきた。
続けて何かを話そうとした琳太朗が、不意に咳き込む。
「っ、けほっ……ごめん、真郷。なんか、喉が」
「少し乾燥してるかもな。声も掠れてる……飲み物買ってくるか?」
一瞬目を泳がせてから、小さくコクと頷いた琳太朗。
遠慮と不安が入り混じっていることに気づき、真郷は琳太朗の頭を柔く撫でた。
「すぐ戻ってくる。俺のスマホ渡しておくから、眺めてるフリしておけば周り見なくて済む」
座って伏せていると親切に話しかけてくる人もいるだろうと真郷は考え、琳太朗にスマートフォンを渡した。
「ここ、これで写真でも見ておきな」
にまっと含みを持った笑いを向けた後、真郷の背が遠ざかっていく。
疑問符を頭に浮かばせながら、琳太朗は慣れないスマートフォンを操作した。
『アルバム』の文字をタップすると、写真がたくさん並んでいた。
小さな写真それぞれに自分の顔があることに気付き、琳太朗はさらに混乱する。
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