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第60話
琳太朗が目を覚ました時にすぐに感じた、違和感。
視線の先には天井が見えるが、いつもの布団に包まれているときの温かさが感じられない。
自分がどこにいるのか分からない、浮遊感にも似た気味の悪さ。
起きて確かめればいいと、琳太朗が動こうとしたときだ。
(何……身体に、力が入らない……?)
身体に力を入れている感覚が無く戸惑っていたが、もう一度と普段を思い出しながら腹に力を入れると、上体が持ち上がったことに気が付いた。
自分で起き上がれた感覚は、全くない。
視界が動き、天井から敷布団が見えるようになってやっと気が付いたのだ。
起き上がったのも束の間、上体の支え方が分からず、バランスを崩してバタンと横に倒れこんでしまった。
熱が出ているときの覚束なさと似ているが、あの内側に籠る熱さが感じられない。
自分の身体に起きている異変に混乱している琳太朗の視界は、涙で歪み、ぼやけていく。
「……さ、っ……まさ、と、真郷……っ」
どうすれば助けを求められるんだろう。
声を出すには、どうしたらいいのだろう。
記憶にある声の出し方から、自分の耳を頼りに一つずつ音を確かめる。
"真郷”の三音を出すだけなのに、酷く息が上がっていた。
呼吸を落ち着けている間に、パタパタと近づいてくる足音に気が付く。
「琳太朗起きたかー……どうした?」
真郷の声が聞こえて、勝手に視界が回って。
目の前に急に真郷が現れたと思ったら、肩を支えられていた。
「……真郷、俺に、さわってる?」
「え? あぁ、ごめん。肩持って起こしたから」
触れたのが気に障ったのかと思って真郷が琳太朗からそっと手を離すと、ぐらりと琳太朗の身体が揺れる。
ベッドから落ちそうになったところを間一髪で抱え、真郷はほっと溜息をついた。
「大丈夫か、琳太朗。熱はないけれど……調子、まだ悪いだろ」
真郷が腕の中の琳太朗にそう尋ねる。
琳太朗の顔を覗き込むと、真っ青で口を固く結んでいた。
ぎゅっと強く抱きしめて、「大丈夫だからな」と再びベッドの上に寝かせようとしていた時。
林太朗が、ぽつりと言葉を落とす。
「さわられてるの、わからなかった……」
「え?」
「俺、変だよ……真郷がだきしめてくれてるのも、わかんない。ずっと身体ふわふわしてて」
ベッドの上で仰向けの琳太朗は、天井を見つめながら涙をこぼす。
「からだ、どうやったら動かせるか、わかんなくなった」
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