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第61話

*_… 午後になり、真郷はソファーの上で毛布を被り、身体を丸める琳太朗の背を撫でていた。 その感覚も、琳太朗には分からない。 午前のうちに往診を頼んだ医師からは、『外部からの刺激にも、内部の刺激にも鈍麻になっている』と話を受けた。 触れられた感覚も、自分の身体を動かすための筋肉の動きも感じにくくなっている、と。 ただし、運動自体が出来なくなった訳ではない。 普段は無意識的に出来ていることを、視覚的に捉えながら動かすようにすれば、慣れてくるのではないか……医師はそう言うが、原因が分からない事もありはっきりした答えは聞けなかった。 考えられるとすれば、精神的な負荷からくるものではないか。 琳太朗の以前の状態を知っている医師は、真郷と二人きりになってから何か思い当たることは無いかと尋ねた。 真郷はすぐに、昨日の外出先での出来事を思い出した。 見知らぬ人に触れられ、激しい拒絶を見せた琳太朗。 大きな不安の中で真郷を求めていたのに、違う人の手に触れられた。 それだけでも、琳太朗にとっては拠り所を無くし、気持ちを崩すには十分な出来事だ。 一時的なショックによるものであれば、時間と共に気持ちが癒えて回復していくはずだ、と。 2年前にも同じ言葉を告げられたことを思い出し、真郷の胸がチリッと痛んだ。 はっきりと現実を受け入れきれず、憔悴している琳太朗。 医師が帰った後、一人になることが不安で真郷に抱えられてリビングのソファーに横たえられた。 「琳太朗、ごめんな」 「……どうして?」 「俺が昨日……琳太朗のことを置いて、離れてたから。あの時のことが、原因かと思って」 じっと琳太朗は床を睨む。 琳太朗も、一人でいることは平気だと思った。 人酔いさえしていなければ、起こらなかったはず。 楽しかった時間に水をさしたのは、自分自身だ……琳太朗はどの言葉を使えば、真郷の気持ちが晴れるかを考えていた。 「……怖かった、でも、真郷が居たから大丈夫だよ」 「でも!」 真郷は言葉を続けようとしたが、琳太朗の顔を見て思い止まる。 表情が抜け落ちたようにただ一点を見つめ、唇は真一文字に閉じていた。 また、と真郷の脳裏に二人で抜け出したばかりの頃の琳太朗の姿が過ぎる。 「真郷もあの女の人も悪くない……ただ少し父さんのことを思い出して……多分、それが一番辛い」 自分に向けられる好意と悪意。 父親の記憶がフラッシュバックしたことが、琳太朗にとって何よりも心に重くのしかかるものだった。

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