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第62話

「俺ね……見えるのに、聞こえるのに。前の時より、怖い」 ぽつりとそう言葉をこぼした琳太朗。 その表情はくしゃりと歪み、今にも泣き出しそうだった。 「不安な時は真郷の体温だけが救いだった。それだけで、傍に居るって感じられていたから……でも」 ぎこちない動きで琳太朗は真郷を見上げる。 「今が1番、遠い。目の前にいるのに触れていない気がして、いやだ……っ、つらい……!」 琳太朗の涙がこぼれ落ちるより早く、真郷は琳太朗を抱き上げた。 急に視界が変わり、琳太朗は目を白黒させる。 声も出ず、ただただ身を硬くするばかりだ。 「……琳太朗」 耳元で聞こえた声に、琳太朗は無意識に身体の力を抜く。 「俺の体温は、覚えている?」 「うん……覚えてる」 「……覚えているから、辛い?」 一瞬押し黙った後、琳太朗は「ん」とだけ返事をした。 届くかどうか分からないが、真郷は普段よりもキツく琳太朗を抱き締める。 するとすぐにふ、と琳太朗が小さな笑みを浮かべる。 「ぎゅーって、してる?」 「うん、してる」 真郷は琳太朗の肩に頭を置き、ぐりぐりと押し付ける。 二人が仲を深めるために1番使ってきたのは、触れ合いだ。 琳太朗の手のひらに真郷が文字を書き、琳太朗は言葉で返す。 そばにいると伝わるように、どこに行く時でも何をする時にも琳太朗と手を繋いでいた。 真郷が触れれば、必ず握り返してくれていた琳太朗の手。 今は以前のように、力を込めることは無い。 その現状に、少なからず真郷も寂しさを感じていた。 「……なぁ、琳太朗」 「なぁに?」 「辛いなら……あまり、触らないようにするか? 俺、癖できっと気付いたら琳太朗にくっついてる気がする」 珍しく眉を下げてそう聞く真郷に、琳太朗はぱちりと瞬きをした。 「ううん、変わらずにいて。もっと近くにいて」 琳太朗は真郷の頭に触れ、ゆっくりと撫でる。 「その方が俺、俺のままでいられるから」

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