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第63話

その翌日から、真郷は変わらずに琳太朗に接していた。 背や横を支えられるようにソファーに座って朝食を食べ、歩けそうな時は支えてもらいながら足を進める。 握られた手の体温はぼんやりとしているものの、琳太朗は触れられている事実を目にしながら愛おしい熱を思い出していた。 「まさと……仕事、明日は?」 「来週まで休みをもらったんだ。明けは立て続けに行くと思うけど、なるべく早く帰るよ」 「……ごめんね。迷惑ばっかりで」 2人並んだソファーの上で、琳太朗は縮こまり身を硬くする。 口を開けば謝る琳太朗に、真郷は眉を下げた。 しかしすぐに琳太朗の口から「でも」と言葉が続く。 「また勉強もしたい、歩いて真郷のこと……迎えに行きたい。やりたいこと、たくさんあるんだ。落ち込んでばっかりじゃ、いられないね」 ややぎこちない動きではあるが、琳太朗は横にいる真郷に顔を向け、口元を緩めた。 きっと、前向きに笑おうとしているのだろう。 琳太朗は、周囲が思うほど弱くはない。 一度落ち込む時はガタガタと崩れてしまうが、そこから戻そうと自ら立ち上がる。 それならば、と真郷は琳太朗の頬にキスをして話し出そうとしたのだが…… 目を見開いてぽかりと口を開けた琳太朗と目が合い、思わず真郷は口籠もった。 「び……っくりした、ほっぺた、熱い……」 「え? 今キスしたところ?」 「うん。ここ、じわーってしてて、なんか、どきどきする」 感覚的な部分を表現するのは難しく、稚拙な言い方ではあるが琳太朗は今の自分の感じ方を何とか表そうとしていた。 真郷が唇で触れた部分が熱を帯びる。 それが自身のものか真郷のものかは分からないが、“触れられた”と感じるには十分だった。 「真郷、おれの手にもう一回して?」 琳太朗がゆるりと差し出した右手をとり、真郷は手の甲から始め、手首から指先にかけて何度も口づけをする。 視覚的な情報も相まって、琳太朗は右手がじんじんと痺れるほど熱くなるのを感じた。 「も、いい……っ、はずかしい!」 ぎゅっと目を瞑り、琳太朗は堪らず声を上げる。 恥ずかしそうにキョロキョロしていた琳太朗が可愛らしくてもう少し反応を見ていたかったが、どうやら限界のようだ。 真郷は名残惜しく思いながら、最後にと手のひらに音を立ててキスをする。 「ひ、ぅ……っ」 「……かわいいな、琳太朗」 喉を締めたようなか細い声を出す琳太朗を見て、思わず言葉が漏れる。 真郷はそのまま琳太朗の体を抱き締めて、ぎゅうぎゅうと愛おしさを見せつけるように力を込めた。

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