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第1章 ある男の意見2

 そのために叢雲の親戚連中から「化け物」と(そし)られ、のけものにされた。  だけど俺は、両親や祖父母から愛され、虐待や育児放棄(ネグレクト)とは無縁の生活を送っていた。  叢雲の一族は、盆暮れ、正月には必ず、九州の本家へ集まることになっていた。  もちろん俺たちも、その時期になると九州の本家へ出向かなくてはいけなかった。何も両親や兄だって、好き好んで本家へ行っていたわけではない。行かないとひどいめに合わされるから、行かざるを得なかったのだ。  本家の当主は毎年、離れに両親を呼びつけては、好き勝手なことをズケズケ言っていた。当時幼かった俺には、当主の話している内容を半分も理解できなかったが、人を殺害することも鋭利な刃物のような、はたまた鈍器のような言葉を口にしている。それだけは読み取れた。  ただ、ただ両親が、当主の言葉に堪え忍んでいる姿を、物陰から見ていることしかできなかった。  親戚の子供たちは、兄とは遊ぶものの俺には見向きもしなかった。「朔夜のことは、この世に存在しない透明人間だと思え」と親や当主から、きつく言い聞かされていたのだ。  声をかけても、とことん無視される。他の子供と一緒に遊ぼうと思い、仲間に入ろうとすれば皆、べつの場所へ移動する。  当時の兄は、兄弟とは思えないほどにどこまでも他人行儀だったから、俺のことを助けてはくれなかった。もともと合理主義な人だし、へたに俺と関わって厄介なことに巻き込まれるのが嫌だったのだろう。なによりあの人は、俺のバース性がアルファに変化するまで、俺を弟として見ていなかったのだから。  当時、俺が住んでいた場所は、北関東の市街地から遠く離れた寂れた田舎町だった。  人口の少ない(へん)()なところで、アルファと目ぼしい子供の数は、(ぜろ)に等しかった。兄も、母も、祖母もアルファであることを珍しがられ、アルファを代々輩出する家だと羨望の眼差しを向けられる。歳の近い子供から、ずいぶん持て(はや)された。たいしたことをしていないのに尊敬され、祭り上げられるのは、いささか(おお)()()に感じたものの悪い気はしなかった。  でも、一部の人間からひどく嫌悪され、これ見よがしに陰口や悪口を言われた。  ――あの子って、叢雲さんの家のご主人に似ていないわね。奥さんが浮気してできた子なのかしら?  ――いやあねえ、違うわよ。だって、朔夜くんは、奥さんにも、ご主人とも似ていないもの。  ――心の優しい人たちだから誰かが橋の下か、ごみ箱に捨てた赤ん坊を拾って自分の子として育てているのよ。

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