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第1章 ある男の意見3

 ――ああ、そういうこと。素性の知れない赤ん坊を自分の子供同然に育てるなんて、人徳のある人たちだわ。  ――だから朔夜くんはアルファじゃないのね。将来ろくな大人にならないわよ。そうに決まっている。  ――もしも、この町に犯罪者が出たりしたら……なんて考えるだけで、ぞっとするわ。何もなければ、いいけど。どっちにしろ、早くこの町から出ていってくれないかしら。  ――おまえ、生意気なんだよ! いくらアルファが生まれる家だからってなあ、おまえも同じアルファだとは限らねえんだぞ!  ――そうだ、そうだ。こーちゃんのうちはなあ、昔からこの町にいて、おまえなんかよりもずうっと偉いんだぞ! シンザンモノが偉そうにすんな!  ――(うば)(すて)山で捨てられたステゴのくせに、調子に乗ってんじゃねえ!  あの頃の俺は、周りの人間の言うことを気にして、いじけていた。何が真実か、嘘かわからなくて意地の悪い人間たちの悪意ある言葉を()()みにしたのだ。自分は、じつの両親から捨てられた()()()()のオメガだと思い込み、ひとり泣いていた。  ちなみに幼稚園がない休みの日は、よく近所の公園へ遊びに行った。兄から外に出ているように言われていたし、彼の言うことを聞かなかったせいで居場所を失うのが、怖かったのだ。  それに、町の子供たちと遊ぶのは楽しかった。  晴れの日は、公園の遊具を使って遊んだり、ごっこ遊びをしたり、駆け回ったりした。雨の日は、誰かの家に行ってテレビゲームをしたり、カードゲームに興じた。  誰かと遊ぶ予定がない日は、町の図書館で手当たり次第に本を読み漁った。  だけど――誰といても孤独感はなくならなかった。  本を読んでいる間は、寂しい思いを忘れられた。でも本を読み終わえた瞬間や、図書館の閉館時間になると悲しい気持ちや恐ろしい過去の記憶が、波のように押し寄せてくる。  俺の中の()()が満たされなくて、腹を空かせた赤ん坊みたいに声を張り上げていたのだ。    *  時が過ぎ、俺は幼稚園の年中組になった。  俺のバース性はオメガのままで、母や祖父母が「大きくなれば、アルファになる」といつも慰めてくれた。  相変わらず、俺のことをいじめてくる奴らはいたけど、それが気にならないくらい仲のいい友達もできた。なにより小学生でアルファの兄がいたので、幼稚園では比較的、快適に過ごせていた。  そんなある日のことだ。ゴールデンウイークの初日に、家族で夢の国へ行くことになった。一泊二日でホテルに泊まる予定だった。

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