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第1章 ある男の意見5

 ゴールデンウィークの初日だったし、上天気だったからみんな外へ出掛けてしまったのだ。  だったら、まだ目を通していない本を読もうと図書館へ行った。  図書館のドアには鍵がかかっていて、ドアの前には「おやすみ」という文字と「ごめんなさい」とお辞儀をする白山羊(やぎ)と黒山羊の立て看板があった。  運の悪いことに、図書館はちょうど休館日だったのだ。 「誰だよ、ゴールデンウイークなんて休みを考えたのは! こんなんで、どう楽しめっつーんだよ!」と呪いの言葉を空に向かって吐くが、気さくに話しかけてくれる司書の声が、かかるわけもなし。  結局、三輪車を押し歩いて公園へ行くことにした。  その道中も――いつもだったら畑仕事に勤しむ老人とその後ろをついて歩く(からす)や、犬を散歩させる人の姿をちらほら目にするのだが、一度も見かけなかった。外で昼寝する猫一匹、電線の上で(さえず)(すずめ)の子一羽すらいない。  町の公園は規模が小さく、遊具といったらブランコとすべり台に鉄棒、あとは砂場だけだった。ただ、幼稚園と小学校の中間地点にあったから子供が集まりやすく、町の中でも比較的(にぎ)やかな場所だったが、ここもほかの場所と同様に、人っこひとりいない状態で閑散としていた。  俺はブランコに乗って誰かが来るのを待った。  公園の時計の針が一周、二周……と回る。    *  結局、十一時を過ぎても誰も来なかった。  幼()()みに嫌々付き合わされる、おままごとですら恋しくなる。次第に心臓のある左胸の辺りが痛くなって両手で押さえた。  そこで、はたと気づく。自分が今、(ひと)りぼっちだということに。  この世界で人間は自分ひとりだけ。  そんな(おぞ)ましい妄想に取りつかれ、孤独感に苛まれる。本家にいるときのように、誰からも認識されない存在に成り果ててしまったのではないかと不安で堪らなくなる。  ……嫌なことを考えるのはよそう。  頭を横に振ってブランコから飛び降り、砂場のほうへ駆けていく。  父の持っていたガイドブックで何度も目にしたシンデレラのお城。王子さまとシンデレラが、いつまでも幸せに暮らした場所。  俺は、誰かが忘れていったスコップとバケツを手に、砂のお城を作ることに意識を集中させた。  四苦八苦しながら手を動かし続け、城は納得のいく形になった。達成感を味わっていれば、ぐうっと腹が鳴る。公園の柱時計に目をやると午後の一時を過ぎたところだった。  朝飯も食いっぱぐれたし、そろそろ家へ帰る時間だな。  横目でちらっと砂の城を見る。

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