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第2章 それは、ずっと昔のお話で2

「まさか、こんなにうまくいくとは思わなかったよ。さっすが、こうちゃん。やるぅ!」 「見ろよ。あいつ、動物園の猿みてえ! おかしいの!」  ゲラゲラと笑う光輝たちの姿を見て日向は、嫌な感じがした。卵を元の場所へ戻し、出入り口の扉を押す。扉は、ガタガタと音を立てるだけで、一向に開かない。 「やだ……どうして出られないの!?」 「出られるわけがないだろ。鍵をかけたんだから。よかったなあ。これで鶏たちとずっと一緒にいられるぞ」 「光輝くんの嘘つき! いいものって、これのことだったの? なんで、こんなことをするの!?」  ようやく嘘をつかれたことに気づいた日向は、光輝たちの仕打ちに対して怒りを露にする。  光輝は鼻を鳴らし、右手を腰に当ててふんぞり返ると人差し指で、鳥小屋の中にいる日向を指さした。 「ばーか。(だま)される奴が悪いんだよ! 誰がおまえなんかと仲よくするかよ。そんなことするくらいなら、死んだほうがまし。さっさとこの町から出ていけよ、ヨソモノ!」 「キチガイの子どもの癖に、おまえ、うざいんだよ! とっとと消えろ!」 「そうだ、そうだ! 図図しくこの町に居座ってんじゃねえよ! どっかに行っちまえ!」 「やめてよ! 僕、キチガイの子供じゃない! お父さんは、そんな人じゃないもん!」  日向は、光輝たちの物言いに傷ついても泣かなかった。大好きな父親を()鹿()にしてくる光輝たちのことが許せなかったのだ。まして、そんな連中の前で涙を見せたくなかったのである。目元が熱くなり、涙が出てきそうになるのを(こら)えて光輝たちのことを見据える。 「なんだ、その目は。他の奴らみたいに泣けよ」 「絶対に泣かない。……人にひどいことをして何が楽しいの? 『人に悪いことをすれば、罰が当たる』ってお母さんが言っていたもん!」  面白くなさそうに光輝は歯()みした。お伴のふたりも、顔を真っ赤にして日向のことを睨む。 「日向、おまえ……『絶対に泣かない』って言ったよな? おい、おまえら、誰が一番最初にヨソモノを泣かせられるか、勝負しようぜ!」 「いいじゃん、やろうよ! こうちゃん、手加減はなしだからな。やーい、日向。悔しかったら、ここまでおーいで!」 「おまえ、きたねーんだから鶏たちに毛繕いしてもらえよ。今日からそこがおまえの家な。一生そこにいろよ!」 「ねえ、ここから出してよ!」  金網を(つか)んで日向が懇願しても、光輝たちは、閉じ込められている日向のことを嘲笑するばかりで出そうとしない。それどころか彼らは、思いつく限りの罵詈雑言を日向へ浴びせる。

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