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第2章 それは、ずっと昔のお話で3

 とうとう光輝たちの心ない言葉に堪えきれなくなった日向は、両手で耳を塞ぎ、目をつぶって地面に座り込んだ。 「……怖いよ。……助けて、さくちゃん……」  すると鬼のような形相をした少年が、幼稚園の先生の手を引っ張って、鳥小屋まで走ってくる。 「光輝! また日向をいじめているのか!? おまえら、いい加減にしろよな!」  思っていたよりも早く朔夜が現れたことに光輝たちは驚き、口をあんぐり開けた。朔夜が先生がを伴ってきたことにより、自分たちの悪行が発覚してしまことを恐れた彼らは、蜘蛛の子を散らすように方々へ逃げ出した。しかし、すぐに先生に捕まり、三人はもれなく(きゅう)を据えられるのであった。 「日向! 今、出してやるからな。待ってろよ」  金網越しから朔夜は声をかけた。扉をあけて中へ入り、足元を歩く鶏たちをよけて、日向のもとへ向かう。  幼稚園の部屋から鳥小屋まで一直線に走ってきた朔夜は、息を切らしながら、身体を縮こまらせている日向のつむじをじっと見る。いまだに耳を塞ぎ、目を閉じている日向の前で腰をかがめ、彼を極力怖がらせないように気をつけながら、丸い頭をそっと撫でた。  しばらくすると日向は、耳を塞いでいた手を放し、目を開けておもむろに顔を上げた。 「さくちゃん、どうしてここに……?」 「どうして、じゃないだろう! おまえ、今日は給食にデザートが出ない日なのに、ずっとそわそわしていたし。光輝たちも、おまえのことをチラチラ見て、にやついた顔で内緒話をしていた。ぜってぇ、なんかあるなって思ったよ。お昼寝の時間に(たぬき)寝入りをして、おまえらの動きを見ていたんだ」 「そっか。さくちゃんは、僕の様子がいつもと違うのも、光輝くんたちが悪いことを考えていたのも、お見通しだったんだ。すごいなあ」  いかにも弱弱しい声でそう言うと日向は黙り込んだ。  光輝たちがいなくなったのに、日向が元気にならない。日向の様子に違和感を覚えた朔夜は、彼の頭を撫でるのをやめて考え込む。  もしかして……光輝たちから殴られたり、蹴られたりして具合が悪いのではないか、という考えに至った朔夜は、卒倒する。 「光輝の奴、日向のことを傷つけやがって! 野郎、ぶん殴ってやる!!」と息巻く朔夜を、日向は(なだ)めながら「違うよ、さくちゃん。そうじゃないの!」と言う。 「だったら、いったい、どうしたんだよ! なにがあったんだ?」 「……光輝くんたちにね、(うそ)をつかれちゃったんだ」  急に立ち上がると日向は、朔夜が開けた扉のほうへゆっくりと歩いていく。朔夜に背を向けたままの状態で「僕って、ほんとに馬鹿だよね!」と空笑いをする。

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