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第2章 それは、ずっと昔のお話で4
朔夜は、日向のすぐ後ろをついて歩き、日向が口にする一言一句を聞き逃さないように耳を澄ませていた。
「光輝くんたちの嫌がることを無意識にしちゃったから、仲よくできないのかな? って、思っていたんだ。でも……そうじゃなかったの」
鳥小屋の扉を閉めながら朔夜は「何がそうじゃなかったんだ?」と訊く。
途端に日向は足を動かすのをやめると、項垂れた。水色のスモックの裾を両手で強く握り、淡々とした口調で朔夜の問いかけに答えた。
「僕が、この町に引っ越してきた子だから――お父さんが、この町で生まれた人じゃないから、光輝くんたちから仲間外れにされているし、嫌われているんだよね。それじゃあ、どうすることもできないよ」
それは朔夜にも身に覚えのあることだった。
ちょうど二年前に、両親が生まれ育ったこの町に引っ越してきた。幼稚園へ入園した日から光輝たちに目をつけられ、一度町を出ていった人間の子どもだからと、爪弾きにされたのだ。
自分ではどうしようもできないことを他人から指摘され、悪く言われるつらさを、悔しさを――朔夜も、嫌というほどに味わってきた。
なるべく足音を立てないようにして朔夜は、日向の前に回り込む。暗い表情を浮かべ、目線を下にしている日向の両頬に触れる。
「ったく、なにを言ってるんだよ!」
そう言って朔夜は、日向の両頬を摘み、横にぐいと引っ張った。
マシュマロのように柔らかいし、餅みたいに弾力があるんだな、と朔夜は、日向の頬の触り心地に感心する。
いきなり頬を引っ張られた日向は、朔夜の腕を叩いて抗議した。
ぱっと朔夜が手を放すと日向は、じんじんする両頬を手で押さえ、声を荒げた。
「もう、さくちゃんったら! 何するの!? 痛いよ!!」
鋭い目つきをすると朔夜は、日向の耳元で怒鳴った。
「日向が馬鹿で、能天気で、阿 呆 なお人好しだから、俺は怒っているんだよ!」
なんの前触れもなく、貶 されたことに腹を立てた日向は、朔夜に負けじと怒鳴り返した。
「いくらなんでも、ひどいよ! その言い方はあんまりじゃない!?」
「“嘘吐きは泥棒の始まり”だ! 人を騙して、ひどいことをする光輝たちが悪いのに、なんでそんな連中と仲よくする必要があるんだよ!?」
「でも、お母さんや幼稚園の先生は、『みんなで仲よくしようね』って言っているよ。僕も、みんなと仲良くなれたほうが幸せだもん!」
「そんなのぜってぇ、できっこねえ! 光輝たちと俺らじゃ、考え方が違うんだよ! おまえだって、さっき言っただろ? 『お父さんがこの町の人間じゃないから嫌われているんだ』って!」
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