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第2章 それは、ずっと昔のお話で8

「ああ、この奥にある」  原っぱには、大小さまざまな種類の草花が群生していた。幼い子供が中へ入るとすっかり姿が見えなくなってしまうくらいに背の高い草も生えていたので、子供たちだけでは入ってはいけないことになっていた。  しかし朔夜は、日向の手を引いて草むらの中へと足を運ぶ。  (とっ)()に日向は、朔夜の手を両手で摑んで、首を横に振る。 「入っちゃ駄目だよ! 先生に怒られちゃう!」 「わかっている。……おまえを無理矢理ここに連れてきたのは俺だ。おまえは悪くない。先生には、日向を怒らないように伝えるから安心しろ」 「待ってよ。僕、そういうことを言っているんじゃないよ!」 「本当は、お迎えの時間にでも渡そうと思っていたんだ。そうすれば光輝たちに邪魔されたり、馬鹿にされずにすむ。なにより壊される心配がない」 「だったら、お迎えの時間まで待つよ。僕、さくちゃんが『誰にも話すな』って言うなら絶対にしゃべらない。約束する」  朔夜は苦笑して日向の手を放した。 「日向が約束を守る奴だって知っているよ。けどな、どうしても今、おまえに渡したいんだ」 「なんで今なの?」  日向が尋ねると朔夜は混乱気味に頭を振る。 「自分でもよくわからねえ。ただ、なんとなく、そんな気がするんだ」  曖昧な口調で朔夜はしゃべった。 「それって、そんなに大事なもの?」  謎の物体に興味を持ち始めた日向が尋ねる。  しばらくの間朔夜は、日向のことを静かに見つめていた。目線を自分の足元へやり、「どうだろうな」と呟く。 「俺にとっては大事なものだけど、おまえにとっては迷惑でしかないかも。第一、気に入るかどうかもわからねえし」 「ねえ、さくちゃん。前に僕があげた誕生日プレゼント、覚えている?」  いきなり質問をされ、日向の言わんとすることがわからず困惑しながらも、朔夜は去年の誕生日プレゼントを思い出す。 「(うさぎ)のぬいぐるみのキーホルダー」 「正解、大当たり! さくちゃん、猫さんは好きだけど、兎さんはあんまり好きじゃないって言っていたよね。『女の子の持ち物みたいで、バッグにつけたりするのは恥ずかしい』って」 「悪かったよ。俺、そんな失礼なことを言ったんだな」  過去の自分が犯した失態を、日向が怒っていると思った朔夜は、ばつが悪い顔をして頬を()く。  日向は、朔夜の態度にきょとんとする。 「僕、怒っていないよ。もう前のことだもん。気にしたって、しょうがないでしょ」 「そうなのか?」  おずおずと朔夜が訊くと日向は「うん!」と元気よく答えた。

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