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第2章 それは、ずっと昔のお話で10

「それは、」  ――「そうだ」とも「違う」とも答えられなくて朔夜は口を閉ざした。 「さくちゃんは、僕がいじめられているところを助けに来てくれて、心配もしてくれた。それなのに、さくちゃんだけ先生に怒られるのは、なんだか変じゃない? どうせ怒られるのなら、ふたりして怒られちゃおうよ!」 「おまえは、それでいいのか?」  ためらいながら朔夜が尋ねると日向は、満面の笑みを浮かべて首を縦に振る。 「いいよ。だって、さくちゃんと一緒なら僕、怖いものはなにもないもん!」  そうして朔夜と日向は手を(つな)ぎ、草の中へと足を進めた。  朔夜は、草を掻き分けながら日向の手を引く。  それでも同年代の子どもと比べて背の低い日向は、緑の海の中で溺れそうになり、あっぷあっぷする。背の高い草顔に当たった拍子に、朔夜の手が離れていってしまう。 「さくちゃん、待って! 置いていかないで……」  日向は、朔夜の背中に向かって手を伸ばす。  すぐに朔夜は後ろを振り返り、日向のもとへ戻ってくる。 「馬鹿だなあ、日向は。置いてきぼりになんかしねえよ」と日向の手をしっかりと握り直した。  歩いているうちに短い草だけが群生している小さな広場に出た。  朔夜は、日向の手を離すと草むらへ、しゃがみ込んだ。  日向は期待に胸を膨らませ、朔夜の背中を見つめている。  すっくと朔夜は立ち上がり、日向のほうへ向き直る。手に取ったものを背中に隠して得意げに笑う。

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