黄色いたんぽぽでできた花冠を、朔夜は日向に見せた。 　花冠の出来映えに日向は感嘆する。 「これ、さくちゃんが作ったの!?」 「ああ、そうだ。おまえ、春休みに親戚の結婚式へ行った話を何度も楽しそうにしてただろう。『花嫁さんも、花婿さんもお花の冠をしていて、可愛かった』って言ってたからさ。絹(きぬ)香(か)に話したら、たんぽぽの冠の作り方を教えてくれたんだ。で、あいつに教わりながら作ってみたんだよ」 「そうなの!?　さくちゃん、手先が器用なんだね。こんなにすてきなものを僕が貰っても、いいの？」 「もちろんだ、おまえのために作ったんだから」 　日向は、朔夜に花冠をかぶせてもらうと、草むらの中をクルクル回った。 「ありがとう、さくちゃん！　すっごく嬉しい！　大事なものって、これのことだったんだね」 　びくりと肩を揺らすと朔夜は、ロボットみたいにかくかくした動きをして、片言なしゃべり方をする。 「いや、えっと……冠を作っていたら、他にも作りたいなって思ったりして……絹香が『こういうのも作れるのよ』なんて言うからさ。それで、つい作っちまったんだ」 「なになに？　見せて！」 　どこか緊張した声色で朔夜は返事をして、ごくりと唾を飲み込むと、白詰草の花でできた指輪を日向の眼前に突き出した。 「その……受け取ってくれるか？　もちろん、たんぽぽの冠もおまえに渡したかったけど、それ以上に、この指輪を渡したいって思っていたんだよ。だから俺が言う大事なものっていうのは、こっちのこと」 　小さな白い花の指輪と、朔夜の顔を交互に見てから、日向は口を開いた。 「だけど、僕、男の子だよ。男の子のお友達に指輪は贈ったりしないんじゃ……」 「友達じゃねえ」 　間髪を入れずに朔夜が答える。 　朔夜の言葉が信じられなくて日向は、真顔になって「えっ？」と訊き返す。 「俺は、おまえのことを友達と思ったことは、一度もねえよ」 　長いこと水を与えられず、萎れてしまった花のように、日向は元気をなくした。 「……そっか。僕……さくちゃんのお友達じゃないんだ。あまりにも、さくちゃんが優しくしてくれるから、勘違いしてた……ごめんね」 　すっかり気落ちした日向を前にした朔夜は、慌てて自分の言葉を弁解する。 「べつに、日向のことが嫌いで『友達じゃねえ』って言ったわけじゃねえからな!?」 「じゃあ、どういう意味なの？」 　朔夜は、日向の右手を手に取った。手の平の上に、白詰草の指輪を乗せ、握らせる。 「俺にとって、日向は特別なんだ。友達以上の存在で、俺にとっては宝物だ。誰よりも、なによりも一番、大切だ」