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第2章 花のアクセサリー2

 瞬間、日向は頭の中が真っ白になった。石のように身体が固まり、身動きが取れなくなる。  あれ? これって、なんだか漫画で見たシーンと似てない? 主人公の男の子が、ヒロインである女の子に思いを告げて、って。……もしかして僕、さくちゃんに告白されているの?  同性で、友だちだと思っていた朔夜からの告白は、まさに青天の(へき)(れき)だった。  だが、「好き」とか「付き合ってほしい」という明確な言葉を言われたわけではなかったので、日向は悩んだ。「さくちゃんは、僕のことを恋愛対象として見ているの?」と訊こうかどうかを考える。  朔夜は、日向の心情の機微に気づかぬまま、自信に満ちた表情をする。 「だって、俺と日向は魂の番なんだ。おまえは俺のオメガで、俺はおまえのアルファだからな」 「――魂のツガイ?」 「そうだ。この指輪は、おまえが他のアルファやベータのところへ行かないように、取られないようにするための……」  そこまで言うと朔夜は何度も「こ、こ、こ……」と壊れたレコードみたいに繰り返した。耳まで真っ赤にして、だらだらと全身に汗をかく。汗ばんだ手を握りしめ、目をぎゅっとつぶる。 「婚約指輪だ!」  大声で朔夜は叫んだ。  息をすることも、瞬きをすることも忘れて日向は、目の前で震えている朔夜のことを凝視する。  朔夜は、自分の心臓が早鐘を打つのを感じながら、日向の返事を待った。  一陣の風が吹くと群生している草たちが、ざあざあと音を立てて揺れる。  恐る恐る朔夜は目を開けた。そこには、眉を八の字にして困惑顔をしている日向がいた。 「あのね、さくちゃん。婚約指輪の意味はわかるけど、『オメガ』と『アルファ』ってなあに……?」  がっくりと朔夜は肩を落とした。そもそも日向がオメガバースについて知らない可能性があることを、考えていなかったのだ。 「ねえ、僕にもわかるように教えてよ!」  日向は、朔夜の腕をぐいぐいと引っ張った。  身(じろ)ぎすれば、鼻先が触れてしまうほどの距離で、朔夜はドキリとする。  大好物のバニラアイスよりも、もっと甘くて良い匂いが、日向の身体から香る。  (ぬれ)()色をした柔らかな髪が風に揺れ、朔夜の肌を(かす)かに擽った。(まつ)毛はマッチ棒を乗せられそうなくらいに長く、瞬きをすれば、光の加減で黒にも、濃い紫にも、深い藍にも見える大きな瞳が現れる。小さな宇宙のような瞳の中に、青、緑、水色といった星々が浮かんでいる。象牙色をした肌はすべすべしていて、手に吸い付くような触り心地だ。頬も、唇も薄紅色をして、どちらも本物の桃のようにふっくらとしている。

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