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第4章 オメガバース2
「もちろんアルファだ! 俺の家は兄ちゃんも、母ちゃんも、ばあちゃんもアルファだ。叢雲の親戚連中も全員な。普通アルファは、アルファの男女が結婚しねえと生まれてこねえんだけど、叢雲の家はオメガやベータと結婚しても必ずアルファの子どもができるんだ」
「それって、とってもすごいことだよね!?」
驚嘆の声をあげ、日向は手を叩いた。
「だから歳の離れたお兄さん・お姉さんがいる子は、さくちゃんのことを一目置いてるんだ! そういう理由だったんだね」とうれしそうな顔をして首を何度も縦に振り、納得するのだった。
「ただ、その……」
朔夜は口ごもり、突然貝のように固く口を閉ざした。
急に朔夜が黙り込んだので、日向は頭にクエスチョンマークを浮かべ、首を傾げる。
不安げな目つきをして朔夜は、日向の黒曜石のような目を見つめた。
苦痛をたえ忍ぶような表情を浮かべている朔夜のことを日向は不審に思う。
「どうしたの? やっぱり、手が痛くなってきた!?」と声を掛ける。
無言の状態で朔夜はブンブンと頭を振る。
……話さないほうがいいんじゃねえか? こんなことを話しても、日向がいやな思いをするだけだ。
「何を言ってるの? さくちゃんったら、おかしいの!」って、あきれるかもしれねえ。
それでも朔夜は、日向にだけは話をしたかった。覚悟を決めて口を開く。
「俺は……最初、アルファじゃなかった。オメガだったんだよ」
衝撃の言葉を耳にして、日向は目を丸くした。
「どういうこと?」
朔夜の言葉に困惑しながら、日向は耳を欹 て、次の言葉を待っていた。
どこか落ち着きなく視線をさまよわせた朔夜は頭を搔きながら、下手くそな笑みを浮かべる。
「親戚のやつらが『おまえは橋の下で拾われた子だ。叢雲の家の子じゃない』って、言うんだ。『叢雲の家にオメガの赤ん坊が生まれることは、ありえない』って」
真っ青な顔色になった日向は今にも泣きそうな顔をした。寂しそうな表情を浮かべる朔夜の手を、両手で強く握りしめる。
「さくちゃんがオメガだったのは病気とか、突然変異じゃないの? だって、さくちゃんの目はおばあさん譲りだし、髪の毛はおばさんと同じ色をしてるよ!? 手の形はおじさんに似てるし、燈夜くんが隣に立つとお顔がそっくりで『兄弟ってすっごく似た顔をしてるんだなー』って、思ったもん! だからさくちゃんは、おじさんとおばさんの子だよ!? そうだよね……?」
おそるおそる日向は尋ねた。
朔夜は、日向を安心させるために微笑んだ。
「そうだよ。正真正銘、俺は父ちゃんと母ちゃんの子だ」
その言葉を聞いて日向は心から安 堵 した。朔夜の手を放し、自分の胸に手を当てて、ほっと息をつく。
「じいちゃんとばあちゃんがさ、ろくでもねえことばっかり言う親戚連中にキレて、俺に血の検査を受けさせることにしたんだ」
「血の……?」
「ああ、刑事ドラマとかであるだろ。殺された人の血を調べるやつ。あれで俺がだれの子か、はっきりさせることにしたんだ。結果は、おまえに話した通り。ついでに俺がオメガである理由も調べたら、先祖返りだってわかった」
「センゾガエリ?」
「そうだ。普通は赤ん坊って、父親や母親、じいちゃん、ばあちゃんとか、いとこに顔が似るだろ。たまにさ昔のご先祖さまに似た子どもが生まれる。それふぁ先祖返り。アルファばっかり生まれる叢雲家にも昔、オメガがいたんだ」
朔夜は、自分の前髪を軽く引っ張った。
「俺の髪が黒くないのも、目が灰色で、肌の色が白いのもご先祖さまの中に白人がいて、その血が濃く出たんだって」
「じゃあ親戚の人たちも、さくちゃんが叢雲の子だって、わかってくれたんだね!」
手放しに日向は喜び、うきうきした。
だが、朔夜は表情を曇らせたまま「いいや、駄目だった」と静かに答えた。「あいつらは、そんな一筋縄でいくような人間じゃねえんだよ。本家の連中から『病気に罹 ってもいないのにアルファじゃない、気持ちの悪い子』ってレッテルを貼られた。そのせいで、母ちゃんたちへの風当たりが、ますます強くなったんだ」
「もう結果は出てるのに、どうして?」
「俺にもよくわからねえ。……親戚の集まりに行くと俺だけ仲間外れにされて、母ちゃんたちも嫌味を言われる。それがいやで、何度か集まりに行かなかったら昼も、夜もひっきりなしに電話がかかってきた。大量の手紙が速達で届いたんだ。いきなり本家の当主や親戚連中が家に押しかけて来たこともあった……。それで母ちゃんたちの生まれ故郷である、この町へ逃げてきたんだよ」
朔夜は項垂れ、乾いた笑い声を漏らした。
「光輝たちにも『川の下で拾われた子。叢雲の名字を名乗る嘘つき』って言われたことがある。だれかが俺の出生について噂したんだ。狭い町だから、すぐにいろんなことが広まるし、根も葉もない話に尾 鰭 がつく」
「でも……それは、光輝くんたちが間違ってるよ! だって、さくちゃんは拾われた子じゃなくて、叢雲のおうちの子なんだよ!? それなのに、そんなことを言うなんてひどいよ!」
眉を釣り上げて日向は、ぷんぷん怒った。
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