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第4章 オメガバース4

「それって、とってもすごいことだよね!?」  驚嘆の声をあげ、日向は自らの手を叩いた。 「だから歳の離れたお兄さん、お姉さんがいる子たちは、さくちゃんのことを一目置いているんだね! そういう理由だったんだ」と嬉しそうな顔をして、首を何度も縦に振り、納得するのだった。 「ああ。ただ、その……」  朔夜は口ごもり、突然貝のように固く口を閉ざした。  急に朔夜が黙り込んだので、日向は頭にクエスチョンマークを浮かべ、首を傾げた。  不安げな顔付きをして朔夜は、日向の黒曜石のような瞳を見つめていた。  苦痛を堪え忍ぶような表情を浮かべている朔夜を不審に思った日向は、朔夜に向かって「どうしたの? やっぱり、手が痛くなってきたの!?」と声をかける。  ……話さないほうがいいのかもしれない。こんなことを話しても、日向が嫌な思いをするかも。それどころか、「何を言っているの? さくちゃんったら、おかしいの」と言われ、(あき)れられてしまうかも……。  それでも朔夜は、日向にだけはこの話をしたかったし、聴いて欲しかったのだ。  彼は覚悟を決め、口を開いた。 「俺は……最初、アルファじゃなかった。オメガだったんだ」  衝撃の言葉を耳にして、日向は目を丸くした。 「えっ? ……それ、どういうこと?」  朔夜の言葉に困惑しながら、日向は耳を(そばだ)て、次の言葉を待っていた。  どこか落ち着きなく視線を彷徨わせ、朔夜は頭を掻き、へたくそな笑みを浮かべた。 「親戚から『おまえは橋の下で拾われた子どもだ。叢雲の家の子じゃない』って、言われていたんだ。『叢雲の家にオメガの赤ん坊が生まれることは絶対にありえない』って」  日向は顔を真っ青にさせ、今にも泣きだしそうな顔をして朔夜の手を取り、両手で強く握った。 「さっ、さくちゃんがオメガだったのは病気だったとか、突然変異じゃないの!? だって、さくちゃんの目の色はおばあさん譲りだし、髪の色はお母さんと同じだよ!? 手の形はお父さんに似ているし、燈夜くんが隣に立つとお顔の作りがそっくりで『兄弟ってすっごく似ているんだなー』って、思ったもん! だから、さくちゃんのお父さんとお母さんの子だよ!?」  「そうだよ、ね……?」と日向は、恐る恐る朔夜に尋ねた。  朔夜は、日向を安心させるために微笑み、彼の濡羽色の頭をそっと撫でる。 「もちろん。正真正銘、俺は父ちゃんと母ちゃんの子だよ」  その言葉を聞いて日向は心から(あん)()した。朔夜の手を離し、自分の胸に手を当てて、ほっと息をつく。 「じいちゃんとばあちゃんがさ、ろくでもねえことばっかり言う親戚連中にキレて、俺に血の検査を受けさせることにしたんだよ」

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