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第4章 オメガバース6

 眉を釣り上げて日向は、ぷりぷり怒った。  隣にいた朔夜は、空を見上げるのをやめて、日向のことをじっと見てから、眉をへにょりとさせて笑った。 「光輝の家は、この町が村だったときから代々住んでる。ご先祖さまは、地主や村長をやってきた。でも、あいつの家に、アルファの人間が生まれたことは一度だってない。光輝は、それをコンプレックスに思ってた。だから、俺をいじめて、憂さ晴らしをしたんだ。――ほんと、なんもかんもが嫌になった。そんなときに、日向がこの町に来てくれたんだ」  小首を傾げて日向は「どういうこと?」と朔夜に尋ねた。 「俺、すっげえ運がよかったんだ。宝くじの一等賞を引き当てちまった! 一生の間に会えるかどうかもわからない、魂の番と出会えた。おまえと会ったときにさ、ビビビッて来たんだ。日向が俺の運命だって! おまえと会ったあとに病院へ行ったら、俺のバース性は、オメガからアルファに変わってたんだ!」  朔夜は、日向の両手を手に取り、破顔した。 「それから光輝たちは俺のことを馬鹿にしなくなったし、父ちゃんも母ちゃんと仲直りができた。兄ちゃんも俺を弟として認めてくれて、優しくなったんだ。親戚の奴らも俺を、のけものとして扱わなくなった! 全部、全部日向のおかげだ。おまえと出会えて俺は、不幸な透明人間じゃなくなった。幸せになれたんだ!」  あまりにも朔夜が嬉しそうに笑うから、つられて日向も笑顔になった。 「なんだかよくわからないけど、僕、さくちゃんのお役に立てたんだね!? すっごく嬉しい! でも……男の子同士で結婚はできないでしょ?」 「普通はな。けど、アルファとオメガだったら男同士、女同士でも結婚できるんだ。アルファはオメガの花婿で、オメガはアルファの花嫁だからな」  そう言って朔夜は、日向の両肩に両手を置き、真剣な顔付きをした。  朔夜が泣いたり、怒ったり、笑ったりする顔はよく見るものの真剣な顔付きをするところを、日向はほとんど目にしなかった。だから日向は、そんな表情を浮かべる朔夜にドキリとし、頰が熱くなる。 「俺と日向は赤い糸で結ばれているんだ。だから、大人になったら日向は、俺のお嫁さんになるんだぞ。わかったか?」 「うん、わかった! 僕、さくちゃんのお嫁さんになる」――なんて、気楽に返事をすることは、日向にはできなかった。  肩に置かれた朔夜の手は燃えるように熱く、小刻みに震えていた。冗談ではなく、本気で結婚の話をしているのは、その目を見ればわかった。

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