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第6章 不本意な発情期3※

 冷たい声で告げると【朔夜】は日向の(あご)をわし摑んで強引に口付けた。肉厚な舌を口内に捩じ込み、奥で縮こまらせていた日向の舌を捕らえる。  抵抗しようとしているのに日向の身体は思うように言うことをきかない。粘膜が触れ合い、舌を強く吸われるほどに力が抜けていく。そのうちに上顎や歯列までもなぞられ、【朔夜】の唾液を飲まされる。  朔夜のやさしい口づけとは、まるっきり正反対の乱暴な口付けだった。外見は朔夜でも、中身が違う。まったくの別人だ。  眉をひそめ、日向は嫌悪感をあらわにする。  月桂樹(ローリエ)のほのかに甘く清涼感のあるすっとした香りを日向は嫌っていた。それなのに、月桂樹の香りを吸うだけでゾクゾクとした甘い快感が、背筋から腰にかけて走る。腹のずっと奥の部分がきゅうっと切なくなり、じくじくと熱を(はら)む。心臓が早鐘を打ち、自然と息が荒くなる。日向の自身は、日向の意思を無視して、発情期を起こしていた。ローションを入れたわけでもないのに、秘められた(あな)()れる。まるで女の(ちつ)のように、ひとりでに濡れ出したのだ。すでに【朔夜】が与える快感を拾って愛液が洪水のようにあふれており、日向の(でん)()から足の間にかけて生暖かい液体でビチョビチョになっていた。  理性という名の塔が、音を立てて(はかな)くも崩れ去り、地へと還る。目の前にいるアルファの番となることを本能が望む。熱い(くさび)で貫かれ、子種が欲しいと()()る。  オメガの身体は、目の前にいるアルファを受け入れる準備を着々と進めていった。 「……何、……これ……?」  日向は()()()()()()感覚に身を震わせ、目を白黒させた。  くすくすと楽しそうに【朔夜】が笑う。 「病気持ちのおまえにとって、この感覚は初めてだものなあ。教えてやる。オメガは発情期の最中にアルファを前にすると、この世のものとは思えぬ快楽と悦楽を味わう。身体をつなげ、子を孕み、子孫を残すための獣と化す」 「っ!? やめて……何を!」  【朔夜】は、シャツ越しに日向の乳首を愛撫し始めた。片方は指で、もう片方を舌で(ねぶ)る。  瞬間、ビクンと日向は身体をひくつかせた。「あ、んっ!」と()びた声が、口をついて出る。ろくに触れられてもいないのに陰茎はスラックスの中で窮屈だと主張し、涙を流している。  自分の身体が自分のものではなくなってしまったような感覚を覚え、日向は(がく)(ぜん)とする。  【朔夜】の唾液がたっぷり染み込んだシャツが、日向の象牙色の肌にべとりと張りつく。桃色の乳首は【朔夜】の愛撫を受けて、先がつんと尖り、固くなった。 「もっと触って」と主張している乳首に、【朔夜】は歯を立て、甘噛みする。反対側の固くなりつつある乳首も指先で捏ねくり回し、時たま爪を立てたり、つねったりする。  無体を働かれている状況が我慢ならないのに、日向の身体は【朔夜】の与える快楽を享受するばかり。それどころか、彼を精神的に追い詰めんばかりに口から甘い吐息と喘ぎ声が、ひっきりなしに出る。  にやりと【朔夜】は、いやらしい笑みを浮かべて日向への愛撫を中断する。 「そのまま、おとなしくしていろよ。あのときみたいに痛い思いは、二度としたくないだろ?」  【亡霊】の脅しに、日向が息を()んでいると、横からだれかの泣きじゃくる声と悲鳴のような喘ぎ声が聞こえてくる。  いやな予感がする。  ……見たくない、思い出しくないのに、【朔夜】は日向の顔を横に向けさせる。「よく見ろよ」と声を弾ませて命令した。 「いや! やだ……やめて! 助けてぇ……さくちゃん……さくちゃんっ!」  両手を荒縄で一纏めにされ、満月に無理矢理足を広げさせられている中学生の日向がいた。  中学生の日向は、満月に犯され、朔夜に助けを求めながら泣き叫んでいた。それでも幼さの残る陰茎は完全に勃起し、先走り液を垂らし続けていた。満月のものを挿入()れられてふくらんだ腹部や、テラテラと濡れている赤い乳首に白濁液が付着して、何度も射精したのがわかる。  満月は残酷な笑みを浮かべながら激しく腰を振っていた。満月の膨張しきった赤黒い男根が、日向の赤く腫れた後孔を容赦なく突き上げ、出し入れする。満月の男根が出入りするたびにグチュグチュと()(わい)な音がして、血の混じった薄桃色の精液が、あふれ出た。  【亡霊】の作り上げた幻影を目にした日向は身体を強張らせ、歯をガチガチと鳴らした。  そんな日向の顔や、耳(たぶ)を【朔夜】は舐め、喉を鳴らして笑う。 「朔夜に助けを求めてもいいんだぞ? おまえの絶望に染まった声を聞けば聞くほど、泣けば泣くほど、やつの心は弱くなる。俺もおまえの泣き叫ぶ声に、たまらなく興奮する。好きなだけ泣き叫べ。だが――今は俺が【朔夜】だ。どれだけあいつの名前を呼ぼうと、やつは出て来ない」 「……外道がっ!」  悪態をつき、日向は【朔夜】に頭突きをしようとする。  しかし【朔夜】は、日向の頭突きを躱し、雪の上に日向の頭を叩きつけた。  後頭部に衝撃を受けて日向の視界が大きくぶれ、眼前に無数の星が飛ぶ。 「行儀がなっていないな。それでも碓氷の(まつ)(えい)か? あそこは、礼儀作法の家だろう? 顔は、ヒムカそのもので見目麗しいが、中身は(しつけ)のなっていない野蛮な猿と変わらないな。じつにもったいない」

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