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第7章 絶望と希望の二律背反2
足の裏をガラスで切るのも構わずに走り、日向は、朔夜に抱きついた。
寝ぼけ眼な朔夜は、いきなり日向が登場し、抱きつかれたことに驚き、気が動転する。「ひ、日向!? おっ、おい! どうしたんだよ!?」と上擦った声で、がなる。
しゃくりあげ、肩を小刻みに震わせながら日向は、懐かしい香りがする朔夜の胸へと顔をうずめた。
「よかった……本当によかった。……さくちゃん、目を覚ましたんだね」
「はあ? いったい、なんのことだよ?」と朔夜は、日向の言動を訝しんだ。自分の胸元が、生暖かいもので濡れていくことに気づき、「おまえ、泣いているのか?」と日向に訊く。
ぶんぶん頭を横に振って、日向は朔夜の言葉を否定したが、朔夜は優しい手付きで、日向の顔を上げさせる。
切なげな表情をして、涙を黒曜石のような瞳に浮かべて、日向は泣いていた。
そんな日向の頬に殴られた跡や、切り傷があるのを見て、朔夜は顔色を曇らせる。そっと壊れ物にでも触れるような手付きで、赤く腫れ、切り傷付いた頬へと手を当てる。
「この怪我、どうしたんだ?」
「えっと……これは、その……」
「何があった? 暁 の馬鹿と喧嘩でもしたのか? まさか――あいつに、やっぱり結婚をなかったことに――破棄するって言われて、殴られたのか!?」
「いいえ、違います! ……そうじゃ、ないんです」
「だったら、なんで!?」
「気にしないでください! 僕、……あなたが元に戻ってくれて……正気を取り戻してくれて……本当に、嬉しいんです」
日向は涙を零しながら、お日さまのような笑顔で朔夜に笑いかけた。
「えっ?」と困惑した朔夜は、日向の頬にやっていた手を肩に置き直し、日向の身体を自分から離す。
「っ!? おまえ、その格好――!」
日向の姿を目にした朔夜は、顔を赤くしたり、青くさせたりして慌てふためく。
生まれたままの姿をしている日向の腹部には、痣 ができ、乾いた精液や、愛液が付着していた。上半身には夥しい数の歯型やキスマーク、手形がついている。手首や手の甲は赤くなり、手首には擦過傷がいくつもできて、血が滲み出ている。
朔夜は、日向がどんな目に遭ったのかを察し、頬を引き攣らせる。
一時的にでも、朔夜が【亡霊】の呪縛から解かれたことに歓喜した日向は、自分が今、どんな姿をしているのかを失念していた。
「なんですか?」と素っ頓狂な声をあげ、視線を自分の身体へとやり、顔色を悪くする。
すぐさま胸元を両手で隠し、目線を下にやり、身体を縮こまらせる。
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