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第7章 絶望と希望の二律背反7
日向は、朔夜の言葉に口籠 った。まずい料理を食べたときのような顔をして、口を噤 んだ。
「図星か? ったく、危なかっしいところは相変わらずだな! つーか、大人になって、余計ひどくなったんじゃねえか!?」
「なんです、それ!? 心外です!」と日向は、朔夜の言葉に反論する。
「あなただって……無鉄砲で、無理をするところは、ちっとも変わっていないじゃないですか!? 死んだら元も子もないのですよ! 少しは周りの人間の気持ちも、考えてください!」
朔夜は、劇場の大扉を器用に片手で開けた。
大扉の先には、どこまでも果てしなく続いているような長い廊下だった。大小さまざまな色とりどりの蠟 燭 が、両サイドの床の溝の中に飾られ、暗い廊下を照らしている。なだらかな上り道の先には、白い点のようなものが見えた。
大扉が締まると朔夜は、日向の身体を下ろし、白い点のある方向を指さした。
「この道を真っ直ぐ行ったら、大扉がある。そこを出れば、現実世界に帰れる。満月が現れねえうちに早く行け」
「ですが、あなたはどうするのです? 何か考えでも?」
不安を帯びた表情で日向が問えば、朔夜は「嫌、ねえけど」と即答した。
朔夜の言葉を耳にして、一気に力が抜けた日向は肩を落とし、「あなた、ふざけているんですか?」とうんざりした顔をする。
すると朔夜は、真面目くさった顔をして「ふざけてねえよ」と日向に向かって言う。
「【あいつ】は、なんとしてでも、ここで俺が食い止める。この命が尽きるまで、俺に縛り付けておくよ。その間におまえは、暁 のところに戻って、国外で式を挙げるんだ。そうすれば奴も、そうやすやすと手を出せなくなるから」
「だから、そんなことをしても、その場しのぎにしかならないって言っているんです!」
悲鳴じみた声を出して日向は、朔夜に物申す。
「【亡霊】を鎮めなければ、あなたが苦しむ。それなのに、どうして自分ひとりで、全部背負おうとするのですか!?」
それでも朔夜の意思は、日向の言葉を聴いても揺るがなかった。彼は、すでに心に決めていたのだ。日向に何を言われようと、実行するつもりでいたし、一歩も引かないつもりでいたのだ。
「暁は、俺とおまえが――天と地がひっくり返っても浮気なんかしねえ。よりを戻すこともなければ、番となることも、結婚することもねえってわかっている。わかってくれる。あの馬鹿なお人好しは、まかり間違って俺らが一夜の過ちを犯しても、きっと目をつぶる。魂の番だから、アルファとオメガだからと言い聞かせて、自分を納得させる。俺たちを責めたり、憎んだりせずに、許すだろうな」
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