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第7章 絶望と希望の二律背反8

 ダイヤモンドカットされた透明な水晶玉がついている、シンプルな指輪に日向は、指の先でそっと触れた。 「でも世間は違う。おまえの導き出した答えが最適解だとしても、いくらなんでもタイミングが悪過ぎる。たとえ【亡霊】を鎮めることに成功しても、俺といるところを記者にすっぱ抜かれたら、どうする?」  日向は顔を上げ、真剣な顔付きで放す朔夜のことをちらと見てから目線を、ゆらゆらと揺れる蠟燭の火へやった。 「あなたにご迷惑はお掛けしません。そのようなことが起こらないように注意を払って……」 「違う、そうじゃねえ。俺は、誰に何を言われようと、どうなろうと平気だ。けど、おまえのほうはどうなんだよ?」  朔夜は気難しい顔をして、日向の肩に手を置いた。 「おじさんのやってきたことや、死因を、根掘り葉掘り、蒸し返されるかもしれねえんだぞ。そうしたら、おばさんはどうなる? 結果、義理のご両親や親戚から誤解されたらどうする? 暁が俺らのことを理解してくれても、周りはどう受け取るかわかんねえ。一歩間違えれば、破談になっちまうかもしれねんだぞ!?」  口を真一文字に結び、日向は眉間にしわを寄せた。 「結婚を控えたおまえに、危ない橋を渡るようなことはさせられねえ。せめて全部終わってからにしろ。それまでは、俺がなんとか持ち堪えるから」  日向は、両の拳を強く握り締めた。 「言いたい奴には、言わせておけばいいんです。母や義理の両親だって、わかってくれます。――“逃げるが勝ち”。きっと、あなたの言う通りにすれば、僕の命は助かります。でも、【亡霊】はまた、曽祖父に似た碓氷の血を引く子供を見つけ、叢雲の人間に取り憑きます。そうすれば、僕らと同じ思いをする人間が増える。だから僕らの代で、すべてを終らせましょうよ。これ以上、誰も傷付かないようにするため……」  日向の肩に置いてあった右手で横の壁を叩き、「ふざけんな!!」と朔夜は大声で怒鳴る。 「あの町にいる奴らや、その子孫が死のうと生きようと関係ねえ! 何百、何千の命が失われたって構わねえ! この先の俺たち以外の叢雲や、碓氷の奴らがどうなろと、そんなの知ったこっちゃねえ!!」 「叢雲さん!? 何を言っているのですか!」 「だって、おかしいだろ! なんでだよ!?」  左手で胸を掻きむしりながら、朔夜は声を張り上げた。 「何も悪いことをしてねえ奴が、どうして命懸けで祖先の忌まわしい過去(つけ)を清算しなきゃならねえ!? おまえが身も、心もすり減らして、傷付かなきゃいけねえ理由ってなんだよ? 満月の目を覚ましたのは、俺だ! ……おまえと出会って……おまえのことを好きになった俺が……悪いのに……」

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