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第7章 絶望と希望の二律背反13

「さてと、どれがいいかな?」と朔夜は、廊下の隅にある蠟燭の中から赤と金の装飾が施されたものをひとつ手に取り、日向の手の平へと載せる。 「俺は、おまえの式には参列できねえし、現実じゃ会うこともままならねえ。何ひとつしてやれねえ」  その言葉に、日向は残念そうな表情になり、顔を俯かせる。 「だから、これがせめてもの、俺からの最後の贈り物(プレゼント)だ。驚いて落とすなよ? しっかり受け取れ」  にっと笑って朔夜は指を鳴らした。ぼふん、という音とともに、蠟燭から白い煙と色紙や星の形をした折り紙が飛び出る。驚きの声を出し、日向が慌てていると、手にずっしりとした重みを感じる。白い煙が消えると日向の手には、曽祖父から受け継いだ刀があった。 「なっ、なんで!? だって、刀はなくなったはずなのに……!」  興奮気味な様子で日向があたふたしていれば、朔夜は白い歯を見せ、「おまえの大好きな『魔法』な!」と快活に笑った。  日向は、自分の手の中にある刀と朔夜の顔を、交互に見た。  とくに日向からコメントがなかったので朔夜は、「ちょっと、きざっぽかったか?」と頬を掻きながら、苦笑する。 「いえ、そんなことないです。ただ、びっくりして……」 「じゃあ、引いてるわけじゃねえんだな?」 「まさか、引くわけないですよ!」と日向は力説した。 「そっか。それなら、よかった」と朔夜は満足げな様子で言う。 「心がすべてを決める、この精神世界だからこそできる『技』ってやつ? 黒坊主を縛りあげたからかな、ここでの主導権が俺に移ったみたいだ」 「そうなんですか?」  ちらと日向は、大扉の向こうで暴れている黒坊主へと目を向ける。  いくらなんでも話がうまくいき過ぎな気が……【亡霊】を鎮めたわけでも、消滅させたわけでもないのに、主導権がさくちゃんのところへ戻るなんて……そんなことがあり得るのでしょうか?   内心、日向が黒坊主の状態を不審に思っていると、朔夜は、空中から光沢のある青い布を出した。 「俺らの世界はオメガバースはあっても、魔法も、超能力もねえ。――結局最後まで、おまえの目の前でマジックを成功させることはできなかった。何百回も、何千回も練習したけど、結局うまくできなかっただろ? だから、少し嬉しいんだ」  青い布で日向の全身を包み、朔夜はカウントをし、勢い奥布を取り去った。  すると日向の身体は傷ひとつない状態へと戻り、ここへ来たときと同じ服を着ていた。ちゃんと靴も履いている。  まさしくそれは、日向が幼少期から夢に描いていた魔法だった。

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