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第8章 命を賭けた選択2*

 満月の足元の影から触手が出てくると、痛みでまともに動けなくなっている日向の首に巻き付き、日向の首を絞め上げた。 「てめえ、何を……!?」 「『何を』って、見ての通りだ。首を絞めている。おまえも、こいつも俺の言うことを聞かないからな。日向に罰を与え、仕置きをしている」 「罰だと? だったら俺に、罰を与えればいいだろ!」 「なにを言う? こいつは、俺を裏切った憎き男と、あばずれの子孫だ。曲がりなりにもおまえは、俺の大事な、大事な()孫。“馬鹿な子ほど可愛い”というもの。このような罰をおまえに与えるなんて、できぬ」 「嘘つけ! てめえが日向を痛ぶりたいだけだろ!? 今すぐ日向を解放しろよ!!」  怒号を発して朔夜は、日向の救出へと向かう。  満月は銃を構えると朔夜の足元へ二発、()(かく)射撃を行う。それでも朔夜が動くので、銃の照準を朔夜の頭へと変え、さらにもう一発、撃つ。銃弾は、朔夜の耳朶を掠めた。  それでも朔夜は、決して怯まなかった。  魂の番であるオメガが――宝物のように大切な唯一無二の人が、窮地に陥っている。助けたい、助けなくては……!  その一心で、死を恐れず、勇敢に【亡霊】へと立ち向かったのだ。  だが、朔夜が幼児だった頃から彼の身体へ寄生していた満月は、朔夜の心理や行動原理を知り尽くし、熟知していた。すぐに銃口を、日向のこめかみに当てることによって、朔夜の動きを封じた。 「お決まりのパターンだが、あえて言ってやろう。『動くな、動いたら撃つぞ』」  さも愉快だと言わんばかりに満月は笑う。  ――戦況は一変した。  血管が浮き出るほどに両手を握り締め、拳を小刻みに震わせる朔夜の瞳孔は開ききっており、口の周辺の筋肉はひどく硬直していた。  朔夜が自分に向かってこないとわかると満月は、触手の力を弱める。  すると日向は咳き込み、力なく項垂れた。日向の足元の床に、日向が流した血がポタポタと落ちていく。  苦しそうに息をしている日向を、灰色の瞳に映した朔夜は、切羽詰まった表情を浮かべる。 「日向……ぜってぇ、()()()()助けるから。……もう少しの間、辛抱してくれよ」 「……さくちゃん……」  血の気の引いた顔色をした日向は、自分を助けようと考えている朔夜を黒曜石のような瞳に映し、怪我を負っている自身のことよりも、朔夜の身を案じた。  朔夜も、日向も互いを心配し、互いを目に映していた。彼らの目には満月は映っていなかった。満月のことなど眼中になかったのだ。  ふたりから無視をされた満月は、大きく舌打ちをし、あからさまに面白くなさそうな態度をとる。

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