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第8章 命を賭けた選択3

「そんなに、このオメガが大切か? おまえと番うこともできず、子を宿すこともできぬ役立たずのオメガだぞ。それにもかかわらず、アルファだけでなく、同族であるオメガや一般のベータも見境なく誘う異常者だ。魂の番などとは名ばかりの……」 「ごちゃごちゃ、うっせぇな! 俺は、目の前で苦しんでいる奴を放っておけねえんだよ! そいつを助けるのに理由が必要か!? 日向を人質にとるのは、よせ!!」  まるで目障りな害虫でも見るような目付きで、満月は朔夜のことを見据えた。 「まったく、二言めには…『日向、日向』とギャンギャンや()えおって……! まるで犬だ。……ああ、そうだな。おまえは、アルファの中の負け犬。出来損ないの失敗作だ!」  吐き捨てるように言うと満月は、乱雑に銃を床へ置き、足で蹴って朔夜のほうへ滑らせる。  朔夜が履いている黒い革靴の先に、コツンと銃がぶつかる。  いったい全体、満月がなにを考えているのかわからずに、朔夜と日向は困惑する。 「だが、俺は懐の深い男だ。おまえにもう一度だけ、チャンスをやる」 「……なに?」  足元にある銃を一瞥し、朔夜は疑惑の眼差しを満月へ向ける。 「その銃は、六発、弾を(そう)(てん)できる。日向に二発食らわせ、おまえへの威嚇で二発、そして一発はおまえの耳を掠めた。残る弾は一発。俺か、日向か、自分か三択だ。好きな人間を撃て」 「はあ? ふざけんな!! ()()()()()()と同じ手を使うつもりか!?」  朔夜と日向は、満月の言葉を耳にし、衝撃を受ける。朔夜は声を荒げ、満月へ食って掛かる。 「どうせ、てめえに銃を向けて引き金を引いたら、銃が暴発するとか、撃っている最中に日向も、俺も触手に身体を貫かれるとか――そんな筋書きか? どれを選んでも、てめえが一番都合のいい結果になるように、しているんだろ!」 「なんだ、人聞きの悪い。俺がそんな卑劣な手を使うとでも? じつに心外だな」  そう言って満月は(とぼ)ける。 「悪意なんてこれっぽちもない。チャンスだと言っただろ? 俺は善意で言ってやっているのに、被害妄想のひどい奴だ」と言いのけ、清々しいほどの笑顔を見せる。 「ったく、ろくでもねえことを考えつくのだけは、天下一品だよ。あんた」 「褒めるな、照れるぞ。しかし……時間はない」  朔夜と日向は、すぐに満月の言葉の意味を、身をもって知る。  日向の身体に黒い糸が巻き付いているように、朔夜の身体にも黒い糸が巻き付いていたのだ。日向のほうは、頭と手足にしか黒い糸が巻き付いていないが、朔夜のほうは、身体のありとあらゆるところに、巻き付いていた。天井から伸びている黒い糸が動き、朔夜の身体は朔夜の意思を無視し、ひとりでに動く。

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