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第8章 命を賭けた選択4*
まるでマリオネットのような動きをする朔夜を見て、満月はほくそ笑んだ。
「クソったれが! なんだよ、これ? 俺に何をさせるつもりだ!?」
「『何をさせるつもり』か? すぐにわかるさ」
震える手で朔夜は床に落ちている拳銃を取り、照準を日向へと合わせる。勝手に指が撃鉄を起こし、銃を装填すると、引き金に指を掛ける。ぶわりと嫌な汗を全身にかき、「おい、冗談はよしてくれよ……勘弁してくれ……」と怯えきった声で言い、引き攣った笑みを浮かべる。
そこで日向は、【亡霊】の真意に気づき、声を張り上げようとする。
だが、日向の動きを逐一監視していた触手が、満月に日向の動きを報告する。
すると満月は、何もない空中から素早くナイフを取り出し、血を流している日向の肩にナイフを突き立てた。弾を取り出すためなどではない。日向を痛め付けるために、日向の肩を刺したのだ。
「日向っ!」
朔夜は銃口を満月へ向けようとしたり、日向のもとへ向かおうと足を動かそうとするが、身体が一切言うことをきかず、文字通り手も足も出ない状況になる。
肩を刺された日向は、苦悶の表情を浮かべ、声を出さないように唇を強く嚙み締めた。
そんな日向の態度に腹を立てた満月は「強情な奴め! さっさと俺に許しを請え!」と怒鳴り、ナイフを握る手に力を込め、傷口を広げる。
猛烈な痛みを感じて日向は、とうとう痛みに堪えられず、泣き叫んだ。
日向の悲痛な叫び声を耳にした満月は、まるで重奏なクラシック音楽の生演奏でも聴くみたいに、うっとりとした表情を浮かべる。
一方、朔夜は目の前で痛めつけられ血を流す日向の姿を見ていられず、早々に音を上げる。
「やめろ……やめてくれ!! これ以上、日向にひどいことをしないでくれよ……!」
焦りを滲ませた声色だった。なんとかして朔夜は、満月の蛮行を止めようとする。
にやりと満月は唇に弧を描き、ナイフを引き抜いた。ナイフに付いた血を舌で舐め上げ、日向の首元に巻き付いていた触手に退 くように命じる。そして赤くなった首筋へナイフの刃を当てる。
「ならば、早く答えを出せ。じゃないと日向は、このまま俺に嬲 り殺しにされるか、失血死するぞ?」
ナイフの刃が日向の首の皮膚に食い込み、血が流れる。
息も絶え絶えな状態の日向は、朔夜のほうに目線をやり、目で訴えかけながら、言葉を紡いだ。
「……お願い……さくちゃん……大丈夫だから。……僕を……撃って……」
「さあ、撃て! 朔夜!!」
「……さくちゃん……」
絞 り出すような声で、日向は朔夜に懇願した。
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