71 / 150

第9章 一本勝負1

 道着を着た男女は体育教師の言葉を、合図に竹刀を構えた。  すでに()()を終えた生徒たちは、一階にいる者も、二階にいる者も試合が始まるのを今か今かと待ち、固唾を呑んだ。 「始め」  その言葉を合図に子供たちはワアッと喚声の声をあげる。  教師は、体育館で広がる生徒たちの興奮しきった叫び声に耳を塞ぐ。「おまえらスポーツ観戦じゃねえんだから、ちったぁ静かにしろ!」と怒るものの誰も言うことを聞かない。 「ひなちゃん、頑張れー! 絶対に勝ってね!」 「オメガだって努力すれば、アルファに勝てるってことを証明してくれよ!」 「絹香ー、おまえもアルファだろ!? 女だからってオメガの男に負けんなー!」 「そうだ、そうだ! ()()()()から一本取って、アルファの意地を見せつけろよ!」  竹刀を構え、日向の動きを注視している絹香は「いやあね、まったく」と呟いた。 「外野があーだ、こーだとうるさいわ。好き勝手言って。あんたもそう思わない?」 「うーん……どうだろう。みんな、剣道の試合なんて早々目にするものじゃないから、物珍しいんじゃないかな?」と日向は、絹香との間合いを取りながら、苦笑いをする。 「それもそうね。ところでひなちゃん、あたしが女だからって手加減なんてしないでよね。――男だとか、女だとか、アルファだとか、オメガだとか関係ないわ。全力でかかってきなさい」  鋭い目つきで絹香が挑発をすると日向は挑戦的な笑みを浮かべて「もちろん」と頷いた。 「悔いの残らないように正々堂々とやろっか。本気、出すね」 「ええ、望むところ――よ!」  先に動いたのは絹香のほうだった。日向に小手を打とうとするが、素早く反応した日向に阻まれる。どんどん彼女は、男のような重い一撃を繰り出す。だが、日向は次々と絹香の技を竹刀で受け流していった。  生徒たちは手に汗を握り、ふたりの試合を夢中になって見た。  二階から試合を見ることにしていた(みのる)は、ふたりの動きに目を(みは)り、ごくりと(つば)を飲んだ。 「やっべえな……おれらがやってたのとぜんぜん違うわ……」 「迫力あるう!」と穣の左隣にいた(かく)()が、目をらんらんと輝かせる。穣の右隣にいた(よし)()は、「こっちのほうが、もしかしたら朔夜と光輝の試合よりも見応えがあるんじゃね?」とぼそりと口にした。  その近くでは、日向の友達である()()がソワソワと落ち着かない様子で、ふたりの試合風景を目にしていた。 「ひなちゃんも、絹香ちゃんも怪我しないでほしいな。なんでみんな、こんなに楽しんでいるの? 竹刀が当たったら、すっごく痛いのに……ああ、早く終わってくれないかな」とずれたことを言って、目に涙を浮かべている。横から洋子が「そんなに心配しなくても大丈夫よー。そのためにふたりとも、防具をしているんだしー」と、おっとりした声で慰めてやった。

ともだちにシェアしよう!