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第9章 一本勝負2

 洋子の隣りにいた(こころ)はというと鼻息を荒くして「行け、絹香ちゃん! そこよ!! キャアッ……さすが、ひなちゃん! 今のさっと避けたところ、かっこよすぎぃ!!」と、どちらを応援しているのかわからない発言をしている。  先ほど絹香との試合に負けてしまった疾風(はやて)は、ハンドタオルで汗を拭いながら唐突に「そういえば姉さんに聞いたんだけど、江戸時代とか昔の剣道は、相手の隙をついて足を蹴ったり、竹刀そっちのけで相手を殴る・投げるなんてこともやってたんだって」 「おおっ!? マジかよ、(せん)(どう)。そっれて、めちゃハードじゃん」と穣は顰めっ面をする。 「さっすが先導のうちの姉ちゃん! 博識ー!」と角次は指をパチンと鳴らす。 「まあ、今みたいに体育の時間にやったり、身体を鍛えるため、礼儀作法のためだけでなく、実践で刀を使って戦うための稽古だもんな。そりゃあ、命懸けの戦いなんだから、なんでもありだよな」と好喜は顎に手をやった。 「命懸け……」  その時点で鍛冶は顔色を悪くし、ふっと気を失って、後ろに倒れてしまう。  疾風はすかさず鍛冶の背中を抱きとめ、「またか、鍛冶」と首を横に振った。  周りの子供たちは、そんな鍛冶の状態を心配しながら彼を床に寝かせ、試合を見ながら話を続ける。 「ちなみに、今、それやったら……?」と角次が訊けば、疾風は「反則負け、だな」と手でバツ印を作る。  そこへ顔を真っ赤にして怒り狂っている光輝が、やってきた。 「本当、最悪……手加減なしで容赦なくやってきて……!」 「こうちゃん」とお供のふたりは、光輝の様子にオロオロしながら、金魚の(ふん)のようにあとをついていく。  子供たちは、光輝の姿を目にすると一塊になり、ヒソヒソと小声で話をする。 「あれ……光輝と朔夜の試合、もう終わり? 秒で終わってねえか? 朔夜は?」 「えっ、あいつ、いねえんだけど? つーか、試合どうだった? えっ――誰も見てなかったわけ!?」 「仕方ねえだろ! だって、みんな、碓氷と絹香のほうにばっかり注目していたんだからさ!」  パチパチパチと拍手をする音が聞こえ、子供たちは顔を上げる。そこには涼しい顔をした衛と、面を手にし、眼光鋭く光輝のことを睨みつけている朔夜がいた。 「すごかったな、()()()。叢雲相手に頑張っていたじゃないか! てっきり、手を抜いて、すぐに負けると思っていたよ」  光輝はフンと鼻を鳴らし、朔夜のことを一瞥してから腕組みをした。 「嫌味かよ、(たつ)()。ぼくだって、やるときはやるんだよ。第一、王さま相手に手なんか抜いたら、あとでなにをされるかわからないからね」

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