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第9章 一本勝負3

「ずいぶんな言い草じゃないか、光輝。勝負事に手を抜くなんて、ありえねえ。相手に失礼だろ」 「へえ……だから()()()である朔夜は、ぼくみたいな一介のベータ相手でも、手を抜かないでいてくれたわけ。それは感謝申し上げます」 「そもそも、この試合は成績に直結するものだ。みんな、受験を控えているから、少しでも内申点を上げておきたいと思っているんだ。父親や祖父の金で苦労しない奴には、わからないだろう?」 「なんだよ、それ。ぼくに喧嘩を売っているわけ?」と光輝は不機嫌そうに口元をひくつかせた。  お供のふたりも顔を真っ赤にして「なんだよ、叢雲! そういう言い方はないだろ!?」「そうだ、そうだ! こうちゃんに謝れよ!!」と口々に言った。  しかし、そんな彼らに対して朔夜は冷笑を浮かべる。 「べつに喧嘩を売っているわけじゃねえよ。事実を言っているだけだ。好きなようにとれよ」  朔夜の言葉が、(かん)に障った光輝は「なんだと!?」とドスの利いた声を出し、ヅカヅカと歩いて朔夜の胸倉を摑もうとする。 「まあまあ、まあまあ!」とその場にそぐわない脳天気な口調で、衛は一触即発の雰囲気を和ませようと、朔夜と光輝の間に立った。 「せっかく一試合終えたところなんだぜ。勝負はもうついたんだ。第一これは、体育の授業でやっていることだ。殴り合いでもしようものなら、先生に怒られるぞ。再戦はなしでいいだろ」と朔夜の肩を抱き、光輝に対して敵対心を剥き出しにしている朔夜へ声をかける。 「叢雲、おまえが真面目な男なのはわかるが、いくらなんでもその(とげ)のある言い方はよせ。無益な争いを起こして、どうする?」  グッと朔夜は喉元まで出かかった言葉を堪えると苦虫を噛み潰したような顔をして「悪8、言い過ぎた」と光輝に謝った。  すると衛は、朔夜のもとを離れ、面白くなさそうな顔をしている光輝のもとへ行く。  光輝のお供は衛のことをじっと見据えて、衛がどのうおうに出るか、様子を窺っている。 「なんだよ? 王さまの近衛隊長殿が、ぼくのような()(せん)な者に、ご用ですか?」 「おいおい、そんな言い方はないだろ? 今のは叢雲が悪かった。オレも一緒に謝るから許してくれよ」  衛が苦笑すれば、光輝は大きく舌打ちをし、「わかった、許してやるよ」と不遜な態度で謝罪を受け入れる。 「ぼくだって、こんな馬鹿みたいなことで騒ぎを大きくしたくないからね」 「助かるぜ」と衛は、にっと男らしく誠実そうな笑みを浮かべた。 「オレは、日ノ目のこともすげえと思っているぞ。お世辞じゃねえから、勘違いしないでくれよ。なにしろ、この授業――サボっている奴や、最初からやる気のねえ奴もいるからな。見直した」

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