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第9章 一本勝負6

 ――だから、碓氷がオメガとは思えないくらいに、強えってことだろ。つーか、碓氷もヤベエけど、絹香や辰巳だって、相当すげえじゃん。  ――男にだって口でも、喧嘩でも早々負けねえアルファの絹香と、全国模試一桁の常連で、教師からも信頼されているベータの辰巳だぜ。  ――やっぱトップ(スリー)の連中、人間やめてるだろ!? 通りで『王さま』である叢雲の体制が成り立つわけだよ。 ――でもさ、俺たちもその恩恵に預かっているわけじゃん。あいつらのおかげで、上の先輩方みたいに学級崩壊や、いじめ問題が発生して、親を呼ばれて教師に取り沙汰さ……なんてこともないし。  あまりクラスでもしゃべらったことのない男子たちが噂話をしているのを尻目に、日向は顎先へと伝ってきた汗を手の甲で拭っていた。すると急に首の後ろに冷たいものが触れ、「うわっ!」と大声を出し、勢いよく後ろを振り返る。  そこには、ステンレス製の水筒を手に持った菖蒲(あやめ)がいた。 「お疲れ様でした、ひなちゃん。すごい活躍ぶりでしたね!? とっても、かっこよかったです!」  彼女は大輪の花のような笑みを浮かべた。 「なんだ、菖蒲ちゃんか……ビックリしたよ。……てっきり、お化けが現れたのかと思った」  口元に手を当て、菖蒲は「やだー、昼間からお化けなんて出るわけないじゃないですかー!」と声を出して笑う。  日向に水筒を手渡し、マネージャーさながらな様子でハンドタオルを首へかけてやり、今度は絹香のところへ行く。 「(じゃ)(くずれ)さんも、お疲れ様でした。負けてしまって残念でしたね。ここは、お茶をグイッと飲んで、気分転換をしちゃってください!」 「ありがとう」と礼を言いながら、絹香も水筒を受け取った。タオルで額の汗を拭き、頭に巻いていた手拭いを取ると、ふわりと腰まである(こく)(たん)のような色をしたストレートヘアが現れる。絹香は髪ゴムで手早く、髪をお団子頭にまとめ、水分補給をした。  日向は絹香に声を掛け、「今日はありがとう」と頭を下げた。  眉間にしわを寄せて絹香は、「どうしたのよ、ひなちゃん」と戸惑いの声をあげる。 「そんな、礼を言われるようなことはしていないわよ、あたし」 「でも、絹香ちゃんが『剣道をやろう』って誘ってくれたから。そのおかげで僕、強くなれたわけだし」 「やあねえ、もう」と絹香は手を横に振る。 「あたしはただ、棒を振り回したい一心で剣道をやり始めた変人よ。さあちゃんが『意地でも剣道なんかやらねえ!!』って言うから、一緒に切磋琢磨できる子が欲しかったの。たまたま、ひなちゃんに声をかけただけ」

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