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第9章 憧憬2

 *  剣道の最終戦の勝敗はどうなったかというと、朔夜のほうに軍配が上がった。  大人が子供の相手をするような圧倒的な差があり、――最初から日向に勝機はなかった。  日向が竹刀を振るっても、朔夜はすかさず受け流す。まるで日向の動きをあらかじめ読んでいるかのような無駄のない動きで、隙がない。剣道を幼稚園の頃から習い、二段を取っていて、地区大会で優勝したこともある。そんな日向が剣道を習っていない朔夜に圧されている。 「なにこれ?」と口には出さないものの子供たちは、動揺し、ざわついた。 「ほら、言っただろ? 王子さまじゃ、王さまには勝てない、って」  光輝とそのお供や、取り巻きたちは、それ見たことかという態度をとる。  日向の試合をよく観戦しに行く鍛冶と疾風も心配そうな顔をして「なんだか、ひなちゃん。ぜんぜん力出せてないね」「だな。調子が悪そうだ」と会話をする。  面白くなさそうな顔をして光輝は「アルファさまは、なんの努力をしなくたって、なんでもできるんだよ。まったく――羨ましい限りだ」と捨て台詞を口にして、お供や取り巻きたちと一緒に体育館をあとにした。  からっきし剣道に興味のない数名の生徒も「先生、先に帰ります」と大林に告げて、体育館を出ていってしまう。  ――やっぱりオメガはアルファに勝てないんだ。  子供たちは朔夜と日向の試合を見て、バース性の力関係を覆すことはできないという事実を悟り、落胆した。  残った生徒たちの多くは、早く試合が終わることを願いながら、つまらなそうにふたりの試合を眺めた。 なかには授業とはまったく関係のないおしゃべりを始めている者までいあ。  しかし――教師や衛、絹香の反応は違った。 「あいつ、本当にすごいわね。どんだけ負けず嫌いなの? ていうか、たった二ヶ月で全部吸収するなんて、人間やめているわ……」と絹香は悔しそうな口振りで、ぼそりと呟いた。  彼女の隣にいた菖蒲は、絹香の独り言を聞き逃さず、「どういうことですか?」と興味深そうに尋ねる。 「ああ あのね、さあちゃんの目は、カメラアイなの。瞬間的に見たものでも絶対に忘れない。カメラで撮った写真をアルバムに()じているみたいに、頭の中に残っている。目で見たものを、そのまま思い出せるのよ。そういう珍しい目をしているの」 「えっ! それって瞬間記憶能力者ってことですか!?」 「まあ、そういうことになるわね。だから、あいつ、中間とか期末のテストで、教科書の内容をそのまま出すような問題は全問正解できちゃう。ほとんど生徒が入ることのない備品倉庫の物の位置も、先生たちより正確に覚えている。テレビや新聞も見ているし、赤ちゃんのときの記憶もあるから、ここ十年から十五年分のカレンダー代わりにもなるのよ」

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