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第9章 憧憬10

 他の子供たちだって半数は、大人に隠れて性に関する話題を話して情報交換をしたり、共有している。  だが、ふたりの場合は、性への好奇心以上に未来のことを恐れていた。  日向は十五の誕生日を迎えたのに、オメガとしての発情期を経験したこともなければ、男として精通もしていなかった。成長が人と比べてゆっくりだったのだ。  もしも、ある日突然日向が発情期を迎え、その場にいた朔夜以外のアルファが日向の項を嚙めば、朔夜と日向は番になれなない。忘却のレテを使うこともできるが、相手のアルファが日向を気に入り、明日香や雪緒の断りもないままどこかへ連れ去ってしまえば、薬は使えない。ふたりは魂の番であっても離れ離れの状態になる。ましてや相手が巧妙な手口を使う悪質な犯罪者で、国外へ連れ去られてしまったり、殺されてしまったら、二度とふたたび会えなくなる。「恋人」という不安定で、いつ終わりを告げるかもわからない危うい関係ではなく、今すぐ自分だけの番にしたい――番になってほしい。両者ともにそのように思っていたし、お互いの気持ちが手に取るようにわかった。  それでも朔夜は、唇と唇を触れ合わせるキス以上のことを、日向にはしていなかった。ましてや次の授業をふけ、今すぐに日向を抱いてしまうなんてことは、彼の中ではあり得ないことだった。  そんなことをしている現場を誰かに見られ、万が一教師たちや保護者たちの耳に入れば、「まだ中学生なのに学校でなにをしているんだ!」と(しゅう)(ぶん)が町一帯に広まり、自分や日向の首を絞めることになると朔夜は理解していた。それだけでなく自分たちの交際を容認し、静観している真弓や耕助、明日香たちが「子供にどういう教育をしている?」と他の大人たちから槍玉に上げられることも……。  場合によっては、自分たちの仲をよく思っていない雪緒にこれ幸いと仲を引き裂かれ、最悪の結果を招くことだってあり得るのだ。  朔夜は、自らの邪念を振り払うように、勢いよく首を振った。  いきなり朔夜がずぶ濡れになった犬のような動作をし始めたので、日向はビクリと肩を揺らし、何事かと思う。 「大丈夫、さくちゃん?」 「ああ、大丈夫だ! とにかく、もう少し気をつけようぜ。みんながみんな、俺らのことを応援してくれる人間ばっかりじゃねえ。たとえ魂の番でも『男同士で恋人同士だなんて気持ち悪い』。そう思う奴らも、少なからずいるんだからさ」 「うん、そうだね。……僕らの約束を果たすためにも、気をつけなくちゃ」と日向は朔夜の言葉に同意した。

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