89 / 150
第10章 王子さま1
ふたりは別棟の階段を上っていった。朔夜は日向の少し前を歩き、アイボリーの柔らかな色合いをした相談室のドアをノックする。
「豊 岡 先生、叢雲です」
「はい、どうぞ」と優しげな女の声がする。
「失礼します」
朔夜がドアを押し開けるとそこには日向と朔夜の姿を見て、目を丸くしている空 と相談員の豊岡。それから「どうもー! おふたりもここに来たんですね。いったい全体なんのご用ですか?」と手を振る菖蒲がいた。
「おい、なんで虹橋がここにいるんだ!? おまえ、絹香と教室に帰ったんじゃねえのかよ?」
「蛇崩さんには先に帰っていただきました。彼女に、ここまで送ってもらったんです」
「駄目だよ、菖蒲ちゃん」と日向は困り顔をする。
「当分の間は、ひとりで行動をしないで。光輝くんが怒り狂って、なにをするかわからないんだよ?」
「ええ、それは重々承知しています。ただ、ちょーっと用事があったもので」
「用事? 用事ってなんだよ? 豊岡先生に光輝のことを話に来たのか?」
朔夜が問いかけると菖蒲は、心底うんざりした顔をして「ええ、まあ、それもありますね」とおもむろに溜め息をついた。
表情を曇らせた日向は「なにかまた、光輝くんにひどいことをされたの?」と菖蒲に訊く。
「いえ、ひなちゃんや蛇崩さん、辰巳くんたちのお陰で快適に過ごせています。大変助かっていますよ」
「そう? それなら、よかった」
腕組みをして朔夜は「だったら、なんでおまえ、ここにいるんだよ?」と首を傾げる。
「そうですね、蛇崩さんたちや豊岡先生にはお話しましたが、おふたりにはまだ話していませんよね!?」
菖蒲は中腰になり、椅子に座っている空の両肩に手を置いた。
「じつはわたしと空ちゃん、いとこなんです」
同じタイミングで「「いとこ」」と朔夜と日向は驚嘆し、顔を見合わせた。
「やだー、仲がよろしいこと! 息ぴったりですね!?」と菖蒲はふたりのことを笑った。
「うるせえな、恋人同士なんだから仲がいいに決まっているだろ。なんか文句あんのかよ?」
「はい、惚 気 いただきました! 甘々過ぎておなかいっぱい、満腹です」
まるで柳に風、暖簾 に腕押しである。菖蒲は、朔夜の言葉をまともに受け合わず、のらりくらりと躱していった。
やっぱりこの女、苦手だなと朔夜は内心毒づく。
「言われて見れば、確かに! 空ちゃんと菖蒲ちゃん、ちょっと似ているよね。並んでいると姉妹みたい」
「でしょう! わたしたち、昔から仲がいいんです。昔は、どちらかのおうちに遊びに行ったり、お泊りをよくしました。空ちゃんのお母さんが日ノ目さんと再婚してからは、なかなか一緒に遊べなくなってしまったんですけど……それでも長期の休みには出掛けたりして。お店の人に『ご姉妹ですか?』って、しょっちゅう聞かれます!」
ともだちにシェアしよう!