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第10章 王子さま3

 即刻菖蒲は担任と副担任に、光輝の蛮行を告白した。 「これ、嫌がらせの領域を超えていませんか? いじめですよね。先生、今すぐ日ノ目くんに、いじめをやめるように言ってください!」と伝えたが、担任も副担任も顔色を悪くするばかりで、光輝に注意のひとつもしなかった。それどころか「虹橋さんは受験して新しい高校に行くことになるんだし、受験シーズンになったらみんな忙しくなるから。少しの間だけ我慢してもらえないかな?」と菖蒲を言いくるめようとしたのである。  なぜなら、光輝の父親である太陽は隣の市の中学校の校長をしていた。それだけでなく日ノ目家の者は公務員を生業としている人間が多く、中には町の不動産会社の社長や教育委員会、警察の上層部の幹部や弁護士、政治家をしている者もいた。  へたに菖蒲と関わって、日ノ目家の人間に「光輝は悪いことは一切していません! どういうことですか!?」と追求されたり、光輝の親戚がしゃしゃり出てきて職を失う状態へ追い込まれたりしたら大変なことだ、と保身に走ったのだ。  もちろん大林を始めとした一部の教師は、光輝の行いを正そうとしたが、馬の耳に念仏だった。光輝本人は自らの行いを悔い改める気など毛頭ない。それどころか親や親戚の権力を盾に悪行三昧なので、始末に置けないのだ。  結局、朔夜やトップ3の三人、その友人たちで菖蒲を光輝から守ることになった。 「わたし、いろいろな県に転校をしましたが、いじめなんて受けたことは一度もなかったです。ここに来て、こんなひどいめに遭うなんて……夢にも思いませんでしたよ!」 「でも、みんながみんな、光輝くんたちみたいな人じゃないよ。この町には優しい人やいい人たちも、いっぱいいる。そこのところは誤解しないでね」 「それは、もちろん。わかっています!」と菖蒲は語気を強くし、窓辺へ立った。  近くの木でみんみん(ぜみ)の鳴く声がする。開け放った窓から清涼な風が吹いてくる。  学校の近くに建てられたどこか古めかしい家屋の側には、野菜畑があり、のどかな田園風景が広がっている。遠くの山々は木々が青々とお生い茂り、夏の空と綿あめのように白い雲のくっきりとしたコントラストが夏真っ盛りだと、無言で告げる。 「この町は時間がゆっくりしていて、都会で感じていた(けん)(そう)を忘れさせてくれます。空気だけでなく水や食べ物もとても美味しいです。そこら辺を歩いていると町の人たちが声を掛けてくれて、おうちでお茶菓子をいただけることも、畑で採れた新鮮な農作物を分けていただけるのもありがたいです」

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