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第10章 王子さま6

 涙を流し、酸素を求め喘ぐ空の細い肩に、日向はそっと手を置いた。 「大丈夫だよ、空ちゃん。さくちゃん、怒ってないから平気だよ。安心して、ねっ?」  空は救いを求めるかのように手を伸ばし、日向に抱き着いた。  幼い子供をあやすような手つきで日向は空の背を、優しく叩いてやる。  すると空はほっと息をつき、日向にぎこちない笑みを浮かべた。 「空、悪い。俺の不注意で発作が起きちまったな。大丈夫か?」 「ううん……ごめんね……朔夜くんのせいじゃないから……気にしないで……」  躊躇いがちに朔夜は返事をした。  空は息を整えると日向の肩に手をやり、日向のもとから離れた。 「……日向くんも……ごめんね。……手間を掛けちゃって。いつもありがとう」 「ううん、大丈夫だよ。空ちゃんが苦しくないのなら、いいんだ」  空は微かに頬を染め、暗闇に差し込んだ柔らかな光を見るような眼差しでで日向のことを熱く見つめた。  そんな空の姿を目にした朔夜の胸中は、他人に優しく手を差し伸べる日向のことを誇らしく思う気持ちと自分が空になにもしてやれないことへの不甲斐なさ、そして――一歩間違っていれば自分も彼女と同じ道を辿ったかもしれないという恐怖だった。 「本当、すごいわねだわ! 日向くんが抱きしめたら、あっという間に具合がよくなるなんて、ビックリ」 「いえ、僕はたいしたことはしていませんよ」 「いっそのこと、ふたりで付き合っちゃえば?」 「えっ……」 「オメガはアルファとしか付き合っちゃいけないなんて法律もないわけだし。空ちゃんを見ていれば、日向くんを好きなのは一目瞭然! 日向くんだって、空ちゃんの 発作を止められる唯一の男の子だもの。ふたりとも、お似合いよ!」  ――植仲中学校だけでなく周囲の中学校の相談員もやっている豊岡は、朔夜と日向が魂の番で付き合っていることも、空が日向に告白をしてすでに振られいることも知らなかった。  日向は豊岡の言葉に当惑し、朔夜と空を交互に見た。  空は一度ぎゅっと目を閉じてから、頼りなさげな笑みを浮かべ、豊岡に話しかける。 「先生、それはできないわ。だって日向くんには、心に決めた人がいるもの」 「ええっ?」 「朔夜くんと日向くんは魂の番で、恋人同士よ。だから、私の入る余地なんてどこにもないの。だって、ふたりともすっごく仲がいいから」  日向と朔夜は空の発言に耳まで赤くし、恥ずかしそうに「まあ、空の言う通りだよな」「うん……」と会話をする。 「あら、そうだったの? 気がつかなくてごめんなさいね」と豊岡はふたりに謝り、「職員室に用があるから」と席を外した。

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