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第10章 王子さま8
悔しそうに朔夜は唇を嚙み締め、今にも消えてしまいそうな微笑みを浮かべる空の姿を目に焼きつけた。
「だから、すっごくありがたいよ。ただの他人である私のことを、自分の家族や兄弟みたいに心配してくれて」
「……俺は、ただ、日向の望む世界を作ってやりたいだけだ。それだって、まやかしだ。砂の城と変わんねえよ。俺のエゴにみんなを付き合わせている。それだけだ」
眉間にしわを寄せて、朔夜は答えのない問題に頭を悩ませ、なんとかかんとか答えた。
空は問題集の空欄に入る言葉を語群から探し、ノートにシャーペンを走らせる。
「普通は、好きな人のためにそこまでできないし、朔夜くんが本当に自分勝手な独裁者だったりしたら、人はついてこないんじゃないかな?」
「たまたま、俺以外に年の近いアルファがいないからだよ。じゃなきゃ、みんなついて来ねえって」
空はノートに回答を書く手を止め、朔夜のほうへ視線をやる。シャープペンをノートの上に置き、両手を膝に置き、冬の雪が降る直前の曇り空のような色をした瞳を見つめる。
「そうかな? そうじゃなきゃ私の好きな日向くんが、ああやって笑顔でいたり、幸せそうにしていることもないと思う。私じゃ、あんなふうにはできないもの。朔夜くんだからできることがあるの。もっと自信を持って、ねっ?」
「……ああ」
朔夜はそう返事をして相談室をあとにし、教室までの帰路をトボトボ歩いた。
*
中学になる直前で朔夜は王さまとなり、光輝たちの誰彼構わず目についた人間をいじめることは、なくなった。
絹香や衛、日向を始めとした子どもたちが朔夜の補佐をし、光輝を見張る体制が整えられた。結果、多くの子供たちが町の中で平穏無事に過ごせるようになった。
だが、光輝は改心したわけではない。根っこの部分はまったくといいほどに、変わっていなかった。
暴君のように自由に振る舞えていたのに、朔夜たちの目が光り、自由のなくなった光輝の積もりに積もったフラストレーションの矛先は、血の繋がらない同い年の妹・空へと向かった。
光輝の父親である太陽は、光輝の母親と離婚をしていた。その後妻が、当時日ノ目家でハウスキーパーをやっていた空の母親の海 だ。海は夫を交通事故で亡くし、女手ひとつで空を養っていた。空が光輝の妹になったのは小学校一年生のときである。まだ、その頃は光輝もいじめっ子といえど上級学生から目をつけられ、目立ったことはそれほどできなかったし、空との仲も良好だった。
彼や空の様子がおかしくなりだしたのは、海が病死し、新しい継母が来てからだ。
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