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第10章 王子さま9
小学校の五年生になる頃には、光輝は独裁者のような振る舞いをして、過激ないじめを繰り返すようになった。
その一方で、もともと大人しい性格をしていた空の口数は、めっきり少なくなった。もとから表情に起伏があるほうでなかったが、人形のように表情の変化がなくなり、いつもどこを見ているかわからない目つきをしていた。身体は急激に枯れ枝のように細くなっていき、汚い身なりをするようになった。
日ノ目家に出入りしている人間や隣家の住人たちは、空のすすり泣く声を聞いたり、継母となった女が暴言を吐き、光輝を殴っている姿を目にした。光輝と空が継母とうまくいっていないことは町で噂になり、子供たちの耳にも入った。
空は自分の格好を気にして、極力他の人間と関わることをいやがるようになった。
光輝の取り巻きをしていた女子たちはそんな彼女に対して「ぼろ雑巾」とあだ名をつけ、いやがらせをした。光輝は空のいじめを止めようとはしなかった。それどころか、自分から空をいじめるようになっていったのだ。
だが、朔夜と衛は空のことを積極的に助けようとはしなかった。いや――できなかったのだ。
両親から愛されてきた朔夜と、兄弟が多く貧乏ながらも家族仲がいい衛。彼らにとって、育児放棄をされ、虐待を受けている空を助けることなど夢のまた夢。自分たち子供の出る幕ではない。学校の先生や行政・警察の介入を待ち、大人たちに空と光輝の運命を委ねるべきだと考えていたのだ。
だが、絹香と日向は空の状態を看過できなかった。
父親やその親族から疎まれている日向と、両親に捨てられ、祖父母と双子の姉 に育てられた絹香は、男女やバース性の垣根を超えて仲がよかったのだ。
二人にとって空と光輝の継母の蛮行は許しがたいもので、友達である空のことを放ってはおけなかったのだ。
そして、朔夜と日向が中学一年生だった十二月に事件が起きた。中学校の全校生徒が合同で走るマラソン大会があり、午前中の授業はなしだった。
体育の練習のときから順位はだいたい決まっていた。体育の授業の成績が特段にいい朔夜と絹香、光輝はマラソンも得意なため先頭で首位争いをし、走ることが好きな衛は疾風や穣、洋子たちと和やかに会話をして真ん中の順位。そしてマラソンがあまり得意ではない日向は、運動音痴の鍛冶や心とともに走り、最後にゴールするのが常だった。
*
三階までの階段を駆け上り、日向は教室の扉を勢いよく開ける。
「お、おはよう……」
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