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第10章 王子さま10
教室のドアの前に置かれた石油ストーブに当たっている洋子や衛と、その近くで図書館から借りてきた漫画を回し読みしている穣、好喜は、すでにヘロヘロ状態になっている日向に向かって挨拶をした。
「せ、先生……まだ来ていない? ……遅刻、セーフ?」
「ああ、ギリギリな。日直である叢雲と野羊 島 が日誌を取りに行ったところだぞ」と衛が教えてやる。
「そっか、今日はさくちゃんと角次くんなんだ……」
好喜は漫画を読むのを中断して、朔夜と角次のことをぼやき始めた。
「ったく、朔夜と角次の奴、運がいいよなー! 午前中、日誌にでっかく〈マラソン〉って書きゃいいんだからさ。碓氷だって、そう思うだろ?」
ずいっと日向に近づき、同意を求めるものの日向は「そ、そうかもしれないね?」と曖昧な答え方をする。
「いや、おまえが言うなよな、好喜。おまえなんだかんだタイミングがよくて、日直の仕事をしなくて済むことが多かっただろーが」と穣は好喜の頭にチョップを食らわす。
「あれ、そうだっけ?」と好喜は、半笑いをする。
席替えのくじ引きで黒板の前の席になった日向はスクールカバンを置き、黒のコートを脱ぎ、水色のマフラーを外し、紺色のジャージ姿なる。自分のロッカーへ掛けにいく(普段であれば制服を着用して登校することになっていたが、この日はマラソン大会ということで生徒はジャージを朝から着用しての登校)それから冷たくなった手を温めようと洋子と衛の隣へ行き、ストーブにあたる。
「あったかいねー。洋子ちゃん」
「そうねー。外の寒さが身に応えるわー、ひなちゃん。うちのお母さんとおばあちゃんが、けさ話していたんだけどー、今日雪が降るかもしれないってー」
「そうなんだ。じゃあ、マラソンは中止になるのかな?」
「いや、それはないんじゃねえか? 天気予報は晴れだったし。なにより先生たちが授業よりマラソンって感じだからな」
「確かに。担任の先生も『授業やらなくて済むぞー!』って喜んでたよね、きのう。ところで、心ちゃんと鍛冶くんは?」
「ベランダよー」と洋子は窓のほうを指さした。
「ベランダ? まさか――光輝くんたちが!?」
真剣な顔つきをした日向が訊けば「違う、違う」と穣と好喜が手を振って否定する。
「自分からベランダに行ったんだよ、あいつら」
「本当は、屋上に行きたいって言ってたよなー」
思わず日向は頭にクエスチョンマークを浮かべ、困惑する。
「とにかく見てみろよ。胡 蝶 も火山も面白いことをやっているぞ!」と衛は眦を下げて楽しそうに笑っている。
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