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第10章 王子さま11

 北風がびゅうびゅう吹いて、身も凍りそうな寒さなのにどうして? と洋子の指さす先を見れば――雨乞いをする()(とう)()のように大雪が降り、マラソンが中止になることを熱心に祈っている心と鍛冶がいた。 「お願いします、天の神さま。雪の神さま。洋子ちゃんのお母さんたちが言っていたように雪を降らせてください。できればドカ雪で、今すぐ積雪三メートルは降るようにお願いします!」 「マラソンはいや、マラソンはいや、マラソンはいや……」  二人の異様な光景を目にし、クラスの人間が誰も口出しすることも手出しすることもできない状況になっていたことを知った日向は、梅干しを口にしたときのような顔をして口をつぐむ。  そこへ日誌を取りに行っていた角次と朔夜が職員室から帰ってくる。 「みんな、外に出て名前の順に並んで……って、うっわ! 心ちゃんと鍛冶のやつ、変なことをやっているな!? どうする、朔夜?」 「引っ張り出す」と朔夜は答えるやいなや、角次に日誌を投げ渡して、ベランダのガラス戸を開ける。 「おい、そこの問題児二人! わけのわかんねえことをしてねえで、さっさと教室に戻りやがれ!」  ガラス戸の手前にいた鍛冶は、ベランダを走って逃げようとするが、朔夜に首根っこを摑まれてしまう。 「うわー、さあちゃんの馬鹿ぁ……! ぼくをいじめるなんて、ひどいよー!」とおいおい泣き始める。 「ふざけんなよな、鍛冶。俺がいつ、てめえをいじめたんだよ!? 誤解を生むような言い方をするな!」 「今、いじめているじゃないかぁ!」 「ああ……」と情けない声を最後に、鍛冶は教室の中へ放り込まれてしまう。教室の床で四つん這いになってシクシク泣いている鍛冶を衛と角次が「ドンマイ」と慰めてやった。  次はおまえだと朔夜は心に狙いを定める。  顔面蒼白状態になった心は欄干に、ひしとしがみついた。 「おい、落ちたら危ねえからよせよ!」と朔夜は心の行動をたしなめたが、心は一向にやめようとしない。 「いやよ! 死んだって走らないからね! 朔夜くんの鬼、悪魔、人でなし! 私たちは走ることが大嫌いで、大の苦手だっていうのに……」と叫ぶ。 「仕方ねえだろ! 走ることが嫌なら俺じゃなくて、大林先生に言えっつーの。つーか、この授業、サボってみろよな? 先輩方にどやされるぞ!?」 「文芸部の先輩たちはね、運動部の先輩たちと違うのよ。みんな、走るのをいやがっているんだから! 雪乞いの儀式を教えてくれたのも先輩たちよ!」と心は衝撃的な発言をする。

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