100 / 150

第10章 王子さま12

 あまりのショックに変顔をした朔夜は、その場でずこっとこけてしまう。 「あのなあ……雪は降るときは降るし、降らねえときは降らねえんだよ。祈って降るようなもんじゃねえ!」 「やっぱり、祈るだけじゃ駄目なのね。生け(にえ)が必用なんだわ。二十一世紀の世界では生きている人間を殺しちゃいけないことになっているし、動物を神さまに捧げる祭壇も余力もないわ。こうなったら――人形を代用にして」  ブツブツと心が物騒なことを口走ると教室にいる生徒たちは、ざわついた。  ブチッと血管が切れた朔夜は「あほなオカルト話に、いちいちつきあってられるかよ! さっさと校庭に行け!」と心を抱きかかえる。暴れる彼女を教室へ連れ戻し、「おかえりー、心ちゃーん」とのほほんとしている洋子に押しつける。 「やだー! 走るのなんか嫌いよ!」と喚く心の頭をよしよしと洋子は撫でてやる。 「大丈夫よー。走っていなくても、歩くのをやめなければ、制限時間内にゴールするわー」とアドバイスをするが、心は「でもでもだってー!」と文句を言っている。  すると校内アナウンスが流れ、担任が教室にやってくる。生徒たちは校庭へ出るように促され、ぞろぞろと廊下へ出ていく。  朔夜はベランダの戸を閉め、大きくため息をつく。 「おはよ、さくちゃん。朝から大変だったね。お疲れさま」と日向は朔夜に声をかける。 「ああ、日向か。はよ。マジでこの時期になると大変だわ」  朔夜は日向に近寄り、彼の肩に頭を寄せる。まだ走ってもいないのに、疲れきっている朔夜の背中を日向はやさしくたたいてやる。 「鍛冶くんがマラソン大会をいやがるのは毎年のことだけど、まさか心ちゃんまでああもいやがるとは思わなかったよね」と日向は苦笑する。  朔夜は日向の背に腕をまわし、抱き寄せる。 「あー……俺だって、できることならマラソンなんかサボりてえよ。おまえと隣町にでもデートしに行きてえ」 「さくちゃん、駄目だよ! そういうことを考えちゃ。マラソンも大切な授業の一貫なんだから。第一授業をサボっているのを先生たちに知られたら大変だよ? さくちゃんのお母さんから拳骨を食らうよ?」と日向が眉を釣りあげる。 「朔夜、あんたねえ。いったい何をしに学校へ行ってるわけ? 学生の本文は勉強でしょうが!」  角を生やし、雷を落とさんばかりの勢いで怒る真弓の姿を想像した朔夜は、苦虫を嚙み潰した顔をして「やめろよ、勘弁してくれ!」と日向に泣きつく。 「もう……半日経てばお昼になるんだから、我慢しようよ。ねっ?」

ともだちにシェアしよう!