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第10章 王子さま14
「でしょー!? だから、碓氷も朔夜ともっと進んじゃえって!」と合いの手を好喜が入れ、「いや、よくねえだろ!」と穣がツッコミを入れた。
「悪い。気づかなかった」と朔夜は耳まで赤くし、角次に謝りに行く。
「いやー、べつにいいのよ。仲よきことは、すばらしきことっつーし?」と角次は答える。
腕組みをした穣は、「けどなあ、今の問題発言は、ちょっと見逃せねえな。碓氷の言う通りだぞ」とうなる。
「でもさ、」と好喜は穣に指差す。
「朔夜がそういうことを言うなんて、めずらしいよな。アルファの王さまでも、オレらと同じことを考えるんだって、なんか親近感がわいたわ!」
「まあ、それはたしかに……な」
「とにかく午前中はおれがやっとくからさ、朔夜は碓氷と先に行きな」
「ああ、ありがとう」と朔夜はジャージの上着のポケットから教室の鍵を出し、角次に手渡す。
「いやいや、礼を言わなきゃなのは、おれのほうっしょ? 次、日直やるときはさ、おれがメインにやるからまかせとけ。つーことで、手伝ってくれよな。穣、好喜!」
「どうせ、そんなことだろうと思ったよ」
「まあ、ストーブの電源を切って、鍵を職員室に持っていくだけだから楽でいいけど。じゃあなー、朔夜、碓氷。また、あとでー! お互い、無理せず頑張ろうぜ」
「そうだな。じゃあ、行くか。日向」
「うん! 三人とも、またね」
日向は三人に手を振り、温かい教室から冷たい廊下へと出た。
階段をおりながら、
「うー、やっぱり寒いね。マフラーも手袋も厳禁なのきついなー。雪が降らなければいいんだけど……」
「あいかわらず寒がりだな。これでもつかえよ。まあ、つかいかけだけどな」とジャージのポケットに入れておいたホッカイロを渡す。
「もらってもいいの? でも、さくちゃんは?」
「俺は平気だ。もとから暑がりだし、絹香が勝負を吹っかけてくるだろうからな。光輝の監視もしねえといけねえし」
「そっか、絹香ちゃんと疾風くんが呼びに行ったんだよね」
「ああ……まったく空も、空の親御さんも、何を考えているんだかな。喘息もちで薬を飲んでんのに、あいつ、マラソンの見学用紙を提出しなかったんだぜ? あの様子じゃドクターストップもかかっているのにさ」
「どうして? なんで、空ちゃんは走るのを辞退しないんだろ?」
「あくまで俺の憶測だけど――空のやつ、意地の悪い継母に出るように脅されているんじゃねえか」
「……その可能性は高そうだね」
「ああ。走らなきゃ飯をやらねえとか、家に入れねえとか適当なことを言ったんだろう。光輝のやつも、継母のご機嫌をとらねえと家でやってけねえみてえだからな。だからあいつも、空に圧力をかけているんだ」
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