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第10章 王子さま15

「そうだね。絹香ちゃんと疾風くんが呼びに行ったんだよね――空ちゃんのことを」 「ああ……まったく空も、空の親御さんも何を考えているんだかな。喘息持ちで薬を飲んでんのに、あいつ、マラソンの見学用紙を提出しなかったんだぜ? あの様子じゃドクターストップもかかっているのにさ」 「なんで? どうして空ちゃんは走るのを辞退しなかったんだろう?」 「あくまで、これは俺の憶測だけど――空のやつ、あのクソ意地の悪い継母に脅されているんじゃねえか」 「……その可能性は高そうだね」 「ああ、大会に出なきゃ飯をやらねえとか、家に入れねえとか適当なことを言ったんだろう。光輝のやつも、継母のご機嫌をとらねえと家でやってけねえみてえだからな。だからあいつも、空に圧力をかけているんだ」  前日からピリピリとしていて始終機嫌が悪く、誰彼構わず当たり散らしていた光輝の姿を、日向は思い出した。両手で朔夜がくれたホッカイロを持ち、胸のまえで抱きしめる。 「何も起こらずに、無事に終わるいいんだけどね」 「だな。一応、先輩方や先生の目もあるし、早々手出しはできねえはずだ。俺と絹香で光輝に目を光らせておくし、衛や穣、洋子たちには、いつもどおり走ってもらって他の連中が怪しい動きをしないか見張るように言ってある。おまえは空の様子を見ておいてくれねえか?」 「うん、任せて」 「頼んだぞ。――けど、無理だけはすんなよ? おまえ、今日、具合があんまよくねえだろ」  朔夜は日向の冷たくなり、赤みのない頬を指先で撫でる。  日向は顔を横に向け、朔夜の手から逃げるような動きをして微笑んだ。 「どうしたの? さくちゃんったら、心配しすぎ」と朔夜のまえを歩いていく。  朔夜は日向の手首をしっかりと摑んだ。 「それ、ほんとかよ? 俺やおばさんに迷惑をかけねえように黙っているんじゃねえのか!?」 「そんなことはないって……」 「俺は嘘をつけねえ人間だ。誰が嘘をついているかどうかもわかんねえ。けど、おまえが嘘をついているときは、だいたいわかる」 「なんのこと?」 「おまえ、さっき抱きしめたときに一瞬だけど、顔を歪めたし、身体を強張らせた。どっか怪我でもしているんじゃねえのか?」  小刻みに肩を揺らした日向の様子を見て、朔夜は確信する。 「なあ、どうして何も言ってくれねえんだよ? 俺はおまえの恋人で、魂の番なんだぞ。それなのに、なんで嘘をつこうとするんだよ……?」  しかし、日向は朔夜の問いかけには答えなかった。  お日さまのような笑みを浮かべて振り返る。「ねえ、急がないと遅れちゃうよ?」と朔夜に言ったきり、無言を貫いた。

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