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第10章 王子さま16
「おい、日向!」
「ほら、さくちゃん。早く行こうよ」
日向は階段を駆け下りていき、下駄箱のほうへと走っていく。
――ああなった日向には何を言っても無駄であることを知っている朔夜は自身の髪を乱暴にかき、日向のあとを追うのだった。
学年ごとに整列し、校庭で校長の講話を聞く。その後準備体操をして、大会前の水分補給とトイレ休憩の時間になった。そのあいだ光輝たちは人の目があるからとおとなしくしており、特に目立った行動は見られなかった。
「おし、じゃあ……おまえら準備はいいか? 歩くのはいいが、どっかの家にご厄介になって茶をしばいたりしたら、おれがおまえらをコッテリしばくから覚悟しとけよ!」と大林の注意にどっと笑い声があがる。
天に向かって上げられたピストルの空砲の音がし、生徒たちは走り始めた。
「神さま、仏さま……お願いだから、雪を! 雪をお願いします!」
「もう鍛冶くん、諦めなよ。雪は降りそうもないよ!?」
走る気力が一切ない鍛冶の背中を押しながら、日向は叫んだ。
速歩きとはとうてい思えない速度で、ゆっくり歩いていた心が、クワッと獲物を見つけたワニのように大口を開ける。
「そんなことはないわ、ひなちゃん! 神さまは天から私たちを見守ってくれているもの。“信じる者は救われる”わ。奇跡はかならず起こるのよ!」
そんな心にタジタジしながら日向は「そ、そうかな……?」と小さな声で答えた。
ちらりと日向は自分たちの後ろを歩く空へと目線をやる。顔色は土気色で、クマもひどい。フラフラしていて歩くのもやっとな状態だった。
「ねえ、空ちゃんだってそう思うでしょ? 雪が降ったらうれしいなって」
心が話しかけても空は何も言わない。表情一つ変えぬまま、まるで耳が聞こえていないみたいな様子で、心を追い越していく。
そんな空の様子に心は悲しそうな顔をして、足を止める。
「心ちゃん? どうしたの?」
日向が話しかけると「うん」と返事をして、しょんぼりとする。
「私……空ちゃんに振られちゃったわ。なんだか、いけないことを言ったかな?」
「光ちゃんがウザいからでしょ?」と鍛冶は口を挟む。
「んなっ、何よ、それ!? ちょっと鍛冶くん! 聞き捨てならないんだけど……!」と心は怒り心頭になり、鍛冶を追いかけまわす。
日向は二人がマラソンそっちのけで追いかけっこをしているのを眺め、小学生だった頃を思い出す。
昔は空ちゃんも笑顔を見せていたし、僕や鍛冶くんといっしょに話しながら走ったりしたな。僕がこけて膝を擦りむいたときにすぐに駆けつけて、手を差し伸べてくれたのは空ちゃんだった。なのに、僕は――。
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