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第10章 王子さま17

「二人とも、いい加減にやめなよ。鍛冶くんも、なんでそんなことを言うの?」 「だ、だって……ほかに理由なんてなさそうだし……」と涙声で鍛冶は答えた。 「時間内にゴールできないと放課後に校庭を走らされるんだよ? 三人で走る?」  二人は首を横にブンブン振って、絶対にいやだと主張した。  鍛冶のジャージャの上着を引っ摑んでいた心は、ゼエゼエ言いながら、目を三角にして日向に話しかける。 「ね、ねえ……どうして空ちゃんは、私を素通りしたのかしら? 私、嫌われちゃったの!?」 「嫌われてはいないと思うけど……」と日向は、ため息をついた。 「雪が好きな人もいれば、嫌いな人もいるんだよ。雪が降ったら、寒いから。……薄着だとすごく冷えるんだよ 」 「だったら、ストーブに当たればいいんだわ!」と心は表情を明るくする。 「うちのママもこの時期になると台所でお料理をつくるまえは、ひっつき虫みたいにストーブに張りついているもの」 「わかる……でも、こたつもいいよね! カタツムリとか、ヤドカリみたいに、こたつで移動したいくらいだよ。なんだかぼく――みかんがほしくなってきちゃったな。早く家に帰って猫のフレアを膝に乗せたいよー」 「わあ、猫ちゃん! いいわね、モコモコのふわふわで。寒いときは、動物や人とくっついて暖を取りたくなるわよね」 「だねー。ホワイトクリスマスに一つのマフラーをいっしょにしているカップルを見ると、ほっこりするよね。ぼく、憧れちゃうなー……」 「いいわね! なんだかすっごく、ときめいちゃう。でも、雪山で遭難した人たちがロッジやかまくらの中で裸になって抱き合うのも王道よね!? ひなちゃんも、さあちゃんとそういうことをしたことはある? 今後のご予定は?」  日向は懸命に走っている空の――自分たちよりもずっと遠くにある背中を、じっと見つめていた。 「ひなちゃん……?」と鍛冶に声をかけられ、ようやく日向は「えっ、何?」と二人の顔を見た。 「話……聞いてなかったのね」と心は、泣き真似をする。 「えっ? あ、あー……ごめんね。ちょっと考えごとをしていて」  急に鍛冶は眉を寄せ、何回も瞬きをして目を擦った。 「あ、あれ……?」  そんな鍛冶の様子に日向は首を傾げ、心は「どうしたの鍛冶くん?」と鍛冶に声をかける。 「なんか、空ちゃんの様子がおかしいような……? 気のせいかな……」  日向は目線を空のほうにやり、息を呑んだ。 「そう? 普通に走っているように見えるけど――」

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