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第10章 王子さま18

 すぐに日向は全速力で走り、空のもとへ向かう。  空の身体はグラリと横に傾き、頭をアスファルトの地面へ打ちつけそうになる。 「空ちゃん!」  すんでのところで日向は空の身体を抱きとめ、空が頭を打つのを回避する。空は目をつぶった状態で荒々しい呼吸をしていた。ジャージ越しに触れた空の身体は、燃えるように熱い。日向は空の額と自分の額に手をやり、熱を測る。 「すごい熱……どうしよう……?」 「ひ、ひなちゃん! 大丈夫!?」 「どうしたの!? 空ちゃん、いきなり倒れたりして……」  鍛冶と心は大声で叫びながら、日向と空のもとへやってきた。 「僕は大丈夫だよ。だけど、どうも空ちゃんの具合が悪いみたいなんだ。意識も(もう)(ろう)としているし、今すぐ棄権させないと」 「ええっ!」と鍛冶と心は悲鳴をあげた。 「あばばばば! どどど、どうしよう!?」  バイブレーダーのように身体を震わせて白目をむき、鍛冶は右往左往する。  そんな鍛冶の胸ぐらを摑んだ心は、神社の境内にある鐘を鳴らすように、鍛冶をブンブン振った。 「先生を呼ぶしかないわよ!? 鍛冶くん、しっかりして!」  日向は空の身体を抱き上げようと試みたが、腹部に激痛が走り、息を詰める。痛みをこらえている日向の眉間にしわが寄る。  よりによって、こんなときに――きのう、お父さんが帰ってきていなければ、空ちゃんを運ぶことだってもっと楽にできたのに。いくらなんでもタイミングが悪すぎるよ……!  混乱している二人を落ち着かせようと日向は声をかけた。 「ごめんね、鍛冶くん、心ちゃん。悪いんだけど、僕一人じゃできそうもないから、手伝ってもらえないかな?」 「ええっ、もちろんよ。なんでも言って!」 「う、うん。ぼくたちにやれることなら! 何をすればいい?」 「ありがとう、二人とも。じゃあ、光ちゃんはこの先にいる先生に声をかけてきてもらえないかな? 空ちゃんが倒れたことを伝えて。そうすれば、先生が次の指示を出してくれる。焦って走ったりしないでね。今度は心ちゃんが怪我をすると大変だから。ゆっくりで大丈夫!」 「“急がば回れ”ね。わかったわ」  心は後ろ髪を引かれる思いをしながら、三人の先を行った。 「ぼ、ぼくはどうすれば……」  オロオロしながら鍛冶は日向の指示を待っていた。 「僕が空ちゃんを背負うから、その手伝いをしてもらえるかな? 立ち上がるときに手を貸して。もしも僕がふらついたときは、空ちゃんが落ちて怪我をしないように支えてほしいな」 「う、うん」  日向は鍛冶の手を借りながら意識のない空の手を自分の首にまわし、彼女の膝を抱え、持ち上げようとする。脂汗を滲ませながら歯を食いしばり、足の裏に力を入れる。

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