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第10章 王子さま20

 鍛冶は言葉をなくし、天を仰いだまま呆然とし、瞬きを繰り返した。 「そういうわけで鍛冶くん、少しでも早く空ちゃんを保健室に連れ帰りたいから……心ちゃんの帰りも遅いし……お願い」 「わ、わかった、よ――じゃあ、気をつけてね」 「うん」  渋々鍛冶は返事をし、後ろ髪を引かれる思いで先を急いだ。  日向が遠くなっていく鍛冶の背中を見送っていると心が意識を取り戻した。 「……日向、くん?」 「うん、そうだよ。目が覚めた?」  空は自分の状況を即座に理解すると、日向におろしてほしいと願った。 「日向くん、もういいよ。私のことは放っておいて……」 「……ごめんね、乗り心地が悪いよね。……駄目だな……さくちゃんや絹香ちゃんみたいには、うまくいかないや……」 「乗り心地のことじゃなくて! 私、汚いから。ここのところ、お継母さんたちの機嫌も悪くて、お風呂もまともに入らせてもらっていないのよ……」 「気にならないから……大丈夫だよ……」 「私が気になるのよ、気にするのよ! これ以上、人に嫌われたくないから……!」と空はヒステリックに叫んだ。 「……嫌わないよ。空ちゃんのことを嫌ったりしない。助けてもらった恩を……仇で返すような真似は絶対にしないよ」 「なんのこと?」 「空ちゃんは、やさしいよ。さくちゃんはみんなを悪者から救う正義のヒーローって感じだけど、空ちゃんは魔法を使って、みんなの怪我を癒やすヒーラーって感じだな。みんなにやさしい。悲しんでいる子や泣いている子の心に寄り添ったり、手を差し伸べることができる人だから」  空は日向の言わんとしていることがわからずに戸惑っていた。 「きみにとっては当たり前のことかもしれないけど、僕にとってはすごいことだった。空ちゃんが勇気を出してくれたおかげで、僕は命を救われた」 「だって、それは……」 「きみが()()()()、勇気を振り絞って、一人でさくちゃんたちを呼びに行ってくれなかったら――僕は確実に死んでいた」  空は日向の言葉に眉を寄せ、日向の肩をぎゅっと摑んだ。 「第一汚れているんだったら、僕の手のほうがずっと汚れているし、汚いんじゃないかな?」 「えっ……」 「空ちゃんも知っての通り、僕のせいで死んだ人たちがいる。そのせいでさくちゃんを苦しめちゃった。衛くんたちを共犯者にして、光輝くんも言われのない罪を問われた。結局、クラスメートのみんなを巻き込んだのも……」  道路にあったひび割れに足を取られ、日向は(つまず)いてしまう。日向は心が怪我をしないように(かば)い、アスファルトの地面に身体を強く打ちつけてしまう。

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