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第10章 王子さま21

「日向くん、大丈夫!?」 「……ごめん……怪我は……」  呻くような声で日向が問えば、空は横に頭を振る。 「大丈夫。私なら平気よ」  高熱で頭が重くなり、ぐらぐらしているが空は自力で起き上がり、日向の上から退いた。身体を強く打ちつけた衝撃のためにアスファルトの地面に突っ伏したままでいる日向の隣で膝をつく。 「私のことなんて放っておけばよかったのよ。先生だってじきに来るし、なのにどうして……」 「だって、熱を出して具合の悪くなっている女の子を、寒空の下で待たせておくなんてできないよ。一分一秒でも早く、先生のところへ連れていきたかったんだ。失敗、しちゃったけどね」  力なく笑う日向の顔を見て、空は膝の上に置いた両の手をぎゅっと握りしめた。ひび割れ、皮が向けて赤くなっている唇を強く嚙む。 「待ってね……今、起き上がるから……」  力を入れて立ち上がろうとするもののじんじんと痛む手足や鈍痛のひどくなった腹部のせいで、日向はうまく起き上がることができず、焦れったい思いをする。なんとか立ち上がることができたが、一歩を踏み出すことができない。電信柱に手をつき、無理矢理足を踏み出そうとしたところで鋭い痛みが全身を駆け巡り、ガクンと膝をついてしまう。 「いい、もういいよ、日向くん! このまま先生を待とう!」 「……でも、」 「日向くんだって、さっき転んだときに、ひどい怪我をしたんじゃないの!? 無理をしたら、あとが大変だよ!」  悔しそうに顔を歪め、日向は地面に座り込んだ。  空はジャージの上着のポケットから絆創膏を取り出した。日向の擦りむけて血が出ている手を取り、傷口に貼る。 「本当は水で洗ってからのほうがいいんだけど、止血の応急処置くらいにはなるかなって……」 「うん。ありがとう、空ちゃん」  空はコクリと頷き、目線を日向の肘と膝へやった。紺色のジャージを着ているので、血が滲んでいるかどうかがよくわからない。日向の傷をたしかめようと「ちょっと見せてもらってもいいな?」とジャージの袖をまくる。 「ま、待って!」と日向は大きな声で叫び、空の行動を止めようとしたが――遅かった。  空は日向の腕を目にすると動きを止め、声を震わせた。 「何、これ……」  日向の腕は(あざ)だらけになり、肌の色が変色していたのだ。  慌てて日向は空の手から逃れるとジャージの袖を下ろし、横を向く。 「ごめんね、変なものを見せちゃって。これは、剣道の練習で怪我をして……」  そうやって日向はなんでもないことのように笑ってみせるが、継母から虐待を受けている空はすぐにピンときた。

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